【有馬記念】藤沢和雄元調教師が語る“有馬の急所” 能力だけで勝てない…好位につけられる器用さ必要

[ 2022年12月22日 05:20 ]

藤沢和雄氏
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 藤沢和雄JRA元調教師(71)が有馬記念の急所を本紙に語った。02、03年シンボリクリスエス、04年ゼンノロブロイで有馬史上初の3連覇を達成した“競馬のレジェンド”が伝授する勝利の方程式とは…。

 12万大観衆の熱気に包まれた中山競馬場が騒然としたのは04年の有馬記念でした。天皇賞・秋、ジャパンCとも中団から差し切ったゼンノロブロイが一転、2番手につけた。逃げるタップダンスシチー以外にライバルはいないと言わんばかりに1周目から追いかけていきます。「仕掛けが早い」、「最後までもつのか」。私の胸に去来する不安を代弁するような悲鳴交じりの声。だが、末脚は衰えない。後続を引き離して一騎打ちに持ち込むと、タップダンスシチーを半馬身かわした。鞍上のオリビエ・ペリエはタップにいったん離されてしまえば、挽回するのが難しいと分かっていた。それで、最初から射程距離に入れてレースを進めた。

 有馬はG1の中でも特に難しいレース。能力だけでは勝てない。ゼンノロブロイの優勝が教えてくれたのも中山2500メートルコースの難しさ。好位につけなければ届かない。直線(310メートル)が短いから後ろにいる馬は早めに差を詰めようとするが、コーナーの外を回れば距離ロスがあってなかなか追いつかない。インを突こうにも、まずスペースはない。

 追い込みのハーツクライもディープインパクトを負かした05年有馬記念では前団(3、4番手)につけています。騎乗したクリストフ・ルメールは先行しなければ勝てないコースだと知っていた。

 G1ホースに脚質なし。オリビエやクリストフのレース運びが教えてくれた格言です。ゼンノロブロイやハーツクライのような器用さも備えた馬ならコースの特徴に合わせて脚質を変えることができる。逆に言えば、脚質を変えられない不器用な馬にはつらいレースになってしまう。

 開催日程も有馬を難しいG1にしています。鉄道の路線図になぞらえれば終着駅みたいなレース。大半の馬にとって、目標のレースはその1駅前、2駅前にある。JC、天皇賞・秋、3歳馬なら菊花賞、牝馬なら秋華賞、エリザベス女王杯。海外なら米国ブリーダーズCや凱旋門賞…。そんな目標を達成した馬たちにどれだけエネルギーが残っているか。有馬駅の1駅前、2駅前にピークを迎えてしまうと、年末まで体調を維持するのは難しい。シンボリクリスエスもロブロイも終着駅までピークをつくらなかったからいいコンディションを保てたのかもしれません。

 日本の競馬はファンで成り立っています。外国の競馬みたいにスポンサーがいるわけではない。ファンがスポンサー。だから、ファン投票で出走馬を決める有馬記念は何よりも重要なレースです。年の瀬の風物詩。タイトルホースもこぞって出走してくる。勝てば日本一だろうと思う。調教師を引退した今でもクリスマスツリーを見ると、さあ有馬だという気持ちになる。

 今年はファン投票1位のタイトルホルダーが主導権を握ると思いますが、どの馬もいい体調でいい競馬をしてほしい。ファンのみなさんも馬券を当てて、クリスマスを懐温かく過ごせますように。GOOD LUCK!

 《藤沢和師3連覇のVTR》
 02年 2番人気の3歳馬シンボリクリスエスが6番手から早めに進出、逃げ粘るタップダンスシチーを半馬身差し切った。同じ藤沢和厩舎のコイントスが3着。1番人気ファインモーションは直線失速して5着。

 03年 1番人気シンボリクリスエスが4角で2番手に押し上げ、リンカーン(2着)をかわすと、有馬記念最大の9馬身差でレコードV。引退レースを飾った。3歳馬ゼンノロブロイが3着。

 04年 天皇賞・秋、JCを連勝した1番人気ゼンノロブロイがハイペースで飛ばしたタップダンスシチーを徹底マーク。半馬身かわして前年のレコードタイムを1秒更新した。00年テイエムオペラオー以来となる秋の古馬中距離G1・3連勝。

 ◇藤沢 和雄(ふじさわ・かずお)1951年(昭26)9月22日生まれ、北海道苫小牧市出身の71歳。英国での修行を経て87年JRA調教師免許取得、88年開業。JRAリーディング(年間勝利数1位)12回。歴代2位のJRA通算1570勝(うち重賞126勝、G1・34勝)。70歳定年で2月末に引退。6月に競馬の殿堂入りに相当する顕彰者に選ばれた。

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