ロベルト系
ボルドグフーシュが切り札になる
ロベルト系は昨年勝ち馬エフフォーリアを擁している。3歳でグランプリを制した父ロベルト系はエフフォーリア以外に5頭。ナリタブライアンは翌年2番人気4着、マヤノトップガンは2番人気7着、シルクジャスティスは6番人気7着。グラスワンダーとシンボリクリスエスはいずれも1番人気で連覇を果たした。先達になぞらえれば、勝った翌年に1番人気にならない成績しか残せていない状況なら厳しいという見方ができる。
3歳馬ボルドグフーシュは、15年勝ち馬ゴールドアクターと同じスクリーンヒーロー産駒。ゴールドアクターは3歳時に菊花賞3着。翌年の夏から1000万→準オープン→G2アルゼンチン共和国杯と3連勝してグランプリに臨み8番人気の低評価を覆して一気に戴冠。ボルドグフーシュは菊花賞2着。先行タイプのゴールドアクターとは違い末一手とあって、中山芝2500メートルとの舞台適性に疑問は残る。それでもタフさを備えた血統背景で、勢いを保持したままの秋3走目。それほど人気にもならない下馬評とあれば、父ロベルト系の切り札はこちらかもしれない。
もう1頭、モーリス産駒ジェラルディーナは今秋に本格化した4歳牝馬。オールカマー、阪神2200メートルのエリザベス女王杯と連勝。この戦歴から初距離であろうとも中山2500メートルが合わないはずがない。強力な牝馬がめじろ押しのサンデー系に比べると、ロベルト系の一流牝馬は層が薄いものの、モーリスはロベルト系の中では柔軟性があって牝馬の活躍馬の比率が高めに出そう。ましてこの馬は母ジェンティルドンナという歴史的な名牝の恩恵を受ける。母子制覇も視野に入る。
サンデーサイレンス系
イクイノックスは万全の態勢
エースはイクイノックス。種牡馬キタサンブラックは初年度から大物を送り出した。その父は3~5歳の3年連続で出走し3→2→1着と着順を上げた。父子制覇を懸けて挑むイクイノックスは秋2走目、年4走目のゆったりローテ。父キタサンブラックは中9週以上の間隔を空けた時と、続く叩き2戦目を合わせて10戦8勝、2着と3着が1回ずつ。叩き3戦目は5戦1勝、2着1回、3着2回、着外1回とややパフォーマンスを落とした。タフなイメージがあるものの、戦歴をみると意外に使い減りするタイプだった。イクイノックスは2歳を2戦で切り上げて皐月賞直行という当初の使い方からして箱入り感はあるものの、あるいはこの父の特徴かもしれないフレッシュなうちの強さを全戦で発揮したい意図がありそうだ。大逃げパンサラッサを捉えた天皇賞・秋は、レースのスペクタクル感は別として、内容的には負担の大きな消耗戦とは言えない。万全の態勢を敷いてくるだろう。
キズナ産駒のディープボンドは昨年2着馬。重い馬場の凱旋門賞18着のダメージが…というのは通用しない。昨年も重い馬場の凱旋門賞に出走して14着に敗れ、帰国初戦の有馬記念で2着。皐月賞10着→京都新聞杯1着、中山金杯14着→阪神大賞典1着、昨年凱旋門賞14着→昨年有馬記念2着と、これまで2桁着順の後は必ず連対してきた。ローレルゲレイロやノースブリッジら近親がいずれも2桁着順から激走の経験があり、捲土(けんど)重来を得意とする牝系。そうした牝系の特徴を引き出すのが父キズナ。産駒が短距離から長距離、ダートも含めてオープン馬が出ている、牝系の良さを引き出すタイプの種牡馬だ。
ジャスティンパレスはディープインパクト産駒の3歳馬。有馬記念のディープ産駒は2勝しているものの、それほど目立たない。コーナーを何度も回るコース形態が、瞬発力に特化した馬が多い産駒の特徴にあまり合わないと思われる。ジャスティンパレスはステイヤー質が強めで、先行含みで息の長い脚を使う。ディープ産駒としてはグランプリ適性が高めの方だが、実際に有馬を勝ったディープ産駒であるジェンティルドンナやサトノダイヤモンドのような世代ナンバー1感があるわけではない。
その他の父系
タイトルホルダー血統史転換再び?
94年以降、ロベルト系とサンデー系以外の種牡馬で勝ち馬を出したのはレインボウクエスト、オペラハウス、ハービンジャー、バゴ。オペラハウスとハービンジャーはノーザンダンサー系、レインボウクエストとバゴはナスルーラ直系のブラッシンググルーム系。父系を大局的に見たとき、ミスタープロスペクター系はまだ有馬記念の勝ち馬を出していない。つまりタイトルホルダー(父ドゥラメンテ)、ヴェラアズール(父エイシンフラッシュ)とも、父系血統としては推せない。ドイツの傍流父系であるノヴェリスト産駒のブレークアップも同様だ。
ただし、タイトルホルダーは「天皇賞・春を史上初めて勝った父ミスタープロスペクター系」という血統的ブレークスルーを既に一度、果たしている。いずれ自身が種牡馬入りして、産駒が中長距離を席巻するなら、父ミスタープロスペクター系における中興の祖となりうるだろう。父系血統史を転換する役目を、天皇賞・春に続いて演じたとしても驚けない。
▽父系の系統とは 父系を分類する上で便宜上、きりのいいところで分けて「~系」と呼ぶ。その馬を起点に子孫が繁栄していることが条件の一つ。サンデーサイレンスは父ヘイロー~その父ヘイルトゥリーズン、ロベルトは父ヘイルトゥリーズンで同じ父系だが、それぞれを起点に特徴が異なる種牡馬が多くいることから、サンデー系、ロベルト系と分けられている。両方込みでヘイルトゥリーズン系と呼ばれることもたまにはある。ノーザンダンサーからは多くの系統が発展。サドラーズウェルズ系、ダンチヒ系、ストームキャット系などを内包する。系統の呼び方は割と恣意(しい)的で、たとえばバゴの系統はブラッシンググルーム系、レッドゴッド系、ナスルーラ系など、どれも存在しており、論者の好みが反映される。
- ◇仙波 広雄(せんば・ひろお)
- 生まれ 1971年(昭46)8月29日
- 血液型 O型
- 出身 広島県呉市
- 学歴・職歴 神戸大学大学院国際協力研究科修士課程修了
- 特技・趣味 ベトナム語
- 競馬記者歴 2000年9月~
- フェイバリットホース ダイタクヤマト、スノーフェアリー、パイロ
- 思い出のレース 10年エリザベス女王杯スノーフェアリー