“モンスター弟”井上拓真 KO初防衛!兄・尚弥と抱き合って涙の叫び「最高です」
WBA世界バンタム級タイトルマッチ ○王者 井上拓真《9回KO》同級9位 ジェルウィン・アンカハス● ( 2024年2月24日 東京・両国国技館 )
9回だった。激しい接近戦から井上拓が右のボディーで攻め立て、2発目のボディーを見舞う。一呼吸おいてアンカハスは苦悶(くもん)の表情を浮かべながら膝をついた。勝利の瞬間、リングを叩いて喜び、兄の尚弥と抱き合った。世界戦初のメインイベンターとしての役割を全うする、世界戦初のKO勝利。涙で顔をくしゃくしゃにしながら「過去一番の強敵だと思っていて、試合当日まで不安でいっぱいでした。勝てるか負けるか分からない極限の状態で練習をしてきて、こういう結果で終われて最高です」と叫んだ。
初防衛戦の相手はかつてIBF世界スーパーフライ級王座を9度も防衛した難敵。4回から激しい接近戦での打ち合いが続く「我慢比べ」だったが「アグレッシブな相手にステップアウトするのは今までと一緒。今日は違うボクシングを見せたかった」と気持ちで上回った。
19年のWBC世界バンタム級王座統一戦での敗戦が変化のきっかけだった。それまでは兄の背中を追いかけるように同じ練習をこなしてきたが、敗戦以降は自分を見つめ直した。前戦までのプロ18勝のうちKO勝利は4つ。様子見の時間が長いことを反省し、積極的に手を出して攻めるボクシングを磨いてきた。持ち味である鉄壁のディフェンス技術を磨きながら、新たに加わった攻撃的スタイル。「強敵にこの内容で勝てて一番自信になりました」。新たな一面を見せた王者に「今日は兄貴を超えたね」と大橋会長もべた褒めした。
この勝利で5月6日に東京ドームで行われることが濃厚な兄・尚弥とルイス・ネリ(メキシコ)の防衛戦で兄弟同時世界戦の可能性も出てきた。見据えるのは兄が返上したバンタム級4団体の王座獲得。殻を破った井上拓がさらなる飛躍を目指す。
◇井上 拓真(いのうえ・たくま)1995年(平7)12月26日生まれ、神奈川県座間市出身の28歳。綾瀬西高1年時に高校総体ピン級優勝などアマ通算57戦52勝5敗。13年12月プロデビュー。15年7月、東洋太平洋スーパーフライ級王者(防衛2)。18年12月、13戦目でWBC世界バンタム級暫定王座獲得。19年11月、WBC同級正規王者ウバーリ(フランス)に判定負けで陥落。23年WBA世界バンタム級王座決定戦でリボリオ・ソリス(ベネズエラ)に判定勝ちで王座返り咲き。身長1メートル64、リーチ1メートル63の右ボクサーファイター。
《尚弥「感動」》井上拓の初防衛をセコンドで見守った兄・尚弥は「本当に素晴らしい試合だった。感動しました」と称えた。これまでプロ19戦で18勝4KOと物足りなさが目立っていたが、この日は積極的な姿勢でKO勝ち。「攻撃は最大の防御という言葉があるように、そういう試合だった」と作戦を分析した偉大な兄は「一皮むけて何か変われるきっかけになれば」とさらなる進化を期待した。
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