アフター東京五輪で大切なアスリート支援 “激闘王”八重樫東氏の取り組みとは…
東京が幕を閉じた。日本選手団は史上最多となる27個の金メダルを含め、計58個のメダルを獲得した。ボクシング競技では女子フェザー級で入江聖奈(日体大)が金メダル、女子フライ級の並木月海(自衛隊)と男子フライ級の田中亮明(岐阜・中京高教)が銅メダルを獲得し、1大会最多となる3個のメダルを獲得した。また、表彰台には届かなかったものの、出場全選手が初戦を突破しており、その奮闘に拍手を送りたい。
これまで国内のアマチュアボクシングは決してメジャーとは言えず、今後は五輪で高まった気運を、いかに継続していくかが大切になる。金メダルに輝いた入江は卒業後は引退し、好きなカエルかゲーム関連で就職先を見つけたいという。それはそれで微笑ましい話ではあるが、競技人口を増やしていくために、マイナースポーツ全てに言えることだが、競技を継続する選手の受け皿やセカンドキャリアを充実させることが不可欠となる。
もちろん、それはプロボクシング界も同じだ。プロと呼ばれながらボクシングだけで食べていけるのは世界王者など、ひと握りのボクサーだけ。大多数は他に仕事を持っていたり、アルバイトをしながらボクシングを続けている。そんな現状にあって、元世界3階級制覇王者で現在は大橋ジムでトレーナーを務める“激闘王”こと八重樫東氏(38)は「アスリートに少しでも競技に集中できる環境を提供したい」の思いから、軽貨物運送業でのアスリート支援に取り組んでいる。
05年のデビューから昨年まで15年間のプロ生活で日本人3人目となる3階級制覇をなし遂げた八重樫氏自身は「恵まれた現役生活を送ることができた」と感じている。一方で、才能に恵まれながら志半ばで引退していく選手を多く見てきたという。「スポーツ選手が輝ける時間は決して長くない」と感じ、アスリートが競技と仕事を両立させるための環境を提供する手段として立ち上げたのが軽貨物運送業だった。
大切にしているのは「競技のために働く」という発想で、シーズンや大切な試合から逆算して働く時期、時間を考え、必要なお金を効率的に稼ぐこと。八重樫氏によると、実際に後輩ボクサーが試合がない期間に集中的に仕事をして日本タイトルに挑戦したり、現役のレーサーやソフトボール選手が空いた時間にドライバーとして収入を得る環境を作ることもできたという。
コロナ禍で所属先やスポンサーの撤退、試合の消失などアスリートを取り巻く環境も厳しくなっている。そんな中、八重樫氏はアスリート支援事業の拡大を決意し、クラウドファンディングによる一般からの支援を募集中だ。プロジェクト名はずばり「アスリートに悔いのない現役生活を」(https://camp-fire.jp/projects/view/415388)。リターンとしてTシャツやタオルなどのオリジナルグッズのほか、実際に試合で使用したシューズなどの記念品、「八重樫東を半日拘束の権利」などを用意している。
コロナ禍で閉塞感が漂う日々が続いていたが、東京五輪では、たくさんのアスリートから感動や元気をもらうことができた。フェンシングで所属選手に1億円の報奨金を贈った企業のような太っ腹なことはできないが、恩返しの意味も込め、わずかでもアスリート支援に役立てればと思っている。 (記者コラム・大内 辰祐)