大場2世だ!“雑草男”下田、涙の新王者
WBA世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦は31日、東京・有明コロシアムで行われ、同級6位の挑戦者・下田昭文(26=帝拳)が、王者・李冽理(リ・レツリ 28=横浜光)を3―0の判定で下し、世界初挑戦で王座を獲得した。下田が左カウンターなどで計3度のダウンを奪い、快勝。王者の技術を封じた。李は初防衛に失敗した。WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦は王者の内山高志(31=ワタナベ)が8回終了TKOで3度目の防衛を果たした。
判定のコールの瞬間、下田は目頭を押さえた。「涙が出ちゃったのは初めて」。ダウンの応酬となった激戦を最後まであきらめなかった。「弱い気持ちが出なかったのも初めて。自分のことを信じた」。自分に勝った。その通りの激闘だった。
3回1分すぎ。葛西トレーナーが「ナチュラルカウンター」と表した左フックが、李の右に合わせて決まった。ダウン。だが、逆に右カウンターでダウンした。「効きました」。カウント直後のゴングに救われた。
しかし、下がらなかった。4回に左まぶたを大きく切ったが、5回に同じ左、8回には右フックでダウンを追加した。李の速く危険な右を最後まで怖がらずに前に出た。「運命を信じた」下田の手が、世界戦のリングで高々と上がった。
名門・帝拳では異色の叩き上げボクサーだ。過去5人の世界王者はトップアマからの転向組がほとんどだが、下田は中3で「ダイエットのために」入門。自宅が近かったのが理由で「名門とは知らなかった」という。
素質を見抜いた葛西トレーナーの指導で、無敗のまま16戦目で日本王座に上り詰めた。法曹関係者の父。兄2人は大卒。高校受験を5校も失敗し、私立高校も中退した落ちこぼれが、「運命」を初めて自覚した。
しかし2年前、4度目の防衛に失敗し再起戦も引き分けた。センス頼みの限界。「あれが始まりだった。2年の努力が出た」。東洋太平洋王座を獲得し、自らつかんだ世界初挑戦だった。
帝拳では元WBA世界フライ級王者・大場政夫(故人)以来のジム育ちの叩き上げ世界王者。本田会長は「小気味いいストレートパンチャー、真っすぐな性格が、大場に似ている部分がある」と話した。ダウンしてからが真骨頂だった永遠のチャンプ。「大場2世」と言っては荷が重すぎるかもしれないが、「男らしく強くなりたい」と話した下田の左まぶたの傷は誇らしげに見えた。
◇下田 昭文(しもだ・あきふみ)1984年(昭59)9月11日、札幌市生まれの26歳。中学3年で帝拳ジムに入門しボクシングを始める。アマ通算戦績は2戦2勝(2KO・RSC)。03年1月プロデビュー。07年4月に日本スーパーバンタム級王座を獲得し3度防衛。10年3月には東洋太平洋同級王座を獲得。1メートル71・2の左ボクサーファイター。
≪永遠のチャンプ・大場≫帝拳初の世界王者・大場は、逆転KOの多いボクサーでもあった。4度目の防衛戦でアモレス(パナマ)に初回にダウンを奪われながら2回に奪い返し、5回KO勝ち。V5戦のチオノイ(タイ)戦は初回のダウンで右足首を捻挫したが、足をひきずりながら奮闘し、12回に逆転KO勝ちした。その23日後、首都高速でシボレー・コルベットを運転中に事故死。「永遠のチャンプ」と惜しまれた。23歳だった。
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