【内田雅也の追球】「長嶋」を見た球際

[ 2025年8月17日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―0巨人 ( 2025年8月16日    東京D )

<巨・神>5回、中山の邪飛を背面捕球する佐藤輝(撮影・篠原 岳夫)
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 水道橋駅から歩道橋をわたる人の波に背番号「3」が目立った。長嶋を知らないはずの若者たちも背負っている。6月3日に永眠した長嶋茂雄の追悼試合である。

 昭和の高度成長期、人びとは長嶋のプレーに元気と勇気と夢をもらった。今日のプロ野球の隆盛をもたらした大功労者である。「燃える男」「ミスター・プロ野球」と呼ばれた。

 オールドファンは長嶋への感謝と懐旧の思いがあったろう。若者たちは先人への敬意があったはずである。スタンドは「3」であふれていた。

 知らずのうちに、グラウンドに「長嶋」を探していた。ヘルメットを飛ばすほど空振りをする選手はいないだろうか。平凡なゴロでも歌舞伎のように格好良くスローイングする内野手はいないだろうか。無類の勝負強い打撃を見られるだろうか……。なかなか見つからなかった。

 「長嶋」が現れたのは5回裏だった。阪神・佐藤輝明の守備である。

 この回先頭打者の三塁側、左翼前の邪飛を懸命に追いかけ、肩越しに好捕した。大げさに書けば大リーグで伝説のウィリー・メイズの「ザ・キャッチ」のような背面捕球だった。場内がわいた。

 続く打球も邪飛で今度は三塁ベンチ前に上がった。佐藤輝は先にベンチ前まで行き、やや後退してまたも好捕した。また、場内がわき返った。

 6回裏先頭、三塁線ゴロに身を翻して好捕した。ワンバウンド送球を一塁手がこぼし、内野安打となったが、それでも場内はわいていた。

 監督・藤川球児は3―0快勝後「佐藤の球際の強さには……勇気をもらえますね」とたたえた。

 この「球際の強さ」こそ「長嶋」だった。何度も書いてきたが、「球際」とは巨人V9監督、川上哲治の造語だと、自ら著書『遺言』(文春文庫)で明かしている。<相撲の土俵際の強さから採ったものだ。要は土壇場ぎりぎりまであきらめない、粘り強いプレーのことである。捕れそうにない球を飛び込んでいって捕って、捕れなければグラブではたき落としてでも食い止めるプロの超美技のことである>。

 そして<全盛期の長嶋はこうした守備を何度も見せた>と記している。

 佐藤輝は打撃はもちろん、守備でも成長が著しい。そして長嶋のように“魅せる”サードになってきた。これがスターである。  =敬称略=
 (編集委員)

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