野球担当記者が高校サッカー取材で「驚いたこと」3選 選手が「神対応」する意外な理由

[ 2024年1月2日 14:51 ]

慶応・森林監督
Photo By スポニチ

 第102回全国高校サッカー選手権が12月28日に開幕した。普段は高校野球などアマチュア野球を担当する記者も駒沢で29日、31日に計4試合を担当。取材を通して「驚いたこと3選」を記したい。

 (1)取材方法

 今年の高校野球の甲子園大会では春、夏ともに投票で約5人の取材選手を決定していた。そのため「この選手を取材したい」と思っていても、蓋を開けてみれば会見場で目当ての選手が不在だった、なんてこともしばしば。今夏の甲子園ではドラフト注目選手が敗退した試合でまさかの「投票負け」。予定していた原稿を書けず「なぜ、この選手を呼ばない…」とガッカリしたことも。

 対して高校サッカーは自由取材の方式。選手更衣室近辺に自由に取材ができる「ミックスゾーン」を設定。背番号が書かれた札を首かける選手たちに声をかけて取材ができるという形式だ。これならば「投票負け」の心配もいらない。甲子園ではスペースの問題、1人あたりの取材時間の問題などを解決できれば「ミックスゾーン制」も実現できるかもしれない。


 (2)サッカー選手の言語化能力

 高校サッカーを取材して3年目となるが、毎年「選手の言語化能力」の高さに驚いている。例えばシステムの質問に対し、(1)普段のシステム(2)試合の中での対応(3)結果に対しての批評、といったように自発的に話をどんどん展開していく。「なぜ、高校生がこんなに話しがうまいんだ…」。率直に疑問をぶつけると、堀越(東京A)の中村健太主将(3年)は「常に自分から発信していくので、言葉の使い方には結構、気をつけている。課題に対してどうすればいいのか、皆で話し合って意見を発表する場面が(練習から)結構ある。言語化する能力は高くなっているのかなと思います」と語った。

 交互に攻撃、守備をする野球とは異なり、一瞬で攻守が入れ替わるサッカー。普段からイレブンが思考を共有していなければ、実戦で思うようなプレーは実行できない。そのため練習から意見交換の場面が多く「言語化」の能力が磨かれているという。その片りんが取材対応にも表れていた、ということだ。


 (3)ボトムアップ方式

 3つめの驚きは野球との共通点。今夏の甲子園では慶応(神奈川)が全国制覇。従来の高校野球のイメージとは違ったおしゃれな髪形の選手が、自分たちで考え、練習メニューや投球フォームや打撃のスタイルなどを決定するスタイルが話題を呼んだ。森林貴彦監督は「高校野球を通してどれだけの人材を出せるか。プロ野球選手になるのもいいですけど、社長になるとか、ノーベル賞を獲るとか、そういう人を出したい」と野球を通して人材育成をする意義を語っていた。全く同じ考えを持つ指揮官が高校サッカー界にもいた。

 サッカーは野球以上に監督のスタイルが反映される競技だ。サンフレッチェ広島が3度リーグを制覇するする礎を築いたミハイロ・ペトロヴィッチ監督は「3―6―1」の可変システムを得意とし、後に監督となった浦和、札幌でもマイナーチェンジを施しながら同じシステムを取り入れた。日本代表ではハリルホジッチ氏が監督を務めていた時に重用されていた久保裕也、中島翔哉が監督交代となった同年のW杯ではメンバー入りすらできなかった。「エース候補」だった選手が監督のスタイルによっては優先度の低い選手に変わる。

 それほどサッカーは指揮官の「色」が濃く出る。そんな競技性の中、今大会で異色のチームに出合った。29日に今治東、31日に初芝橋本を破った堀越は選手が戦術、交代選手を決める異色の「ボトムアップ方式」を採用する。佐藤監督は「僕自身が選手をやっている時に監督の力が凄く大きいと思っていた。特にこの高校生年代では。だけど、彼らが実際にゲームで判断することにサインは出せない。野球と違ってブロックサインを出したり、戦術交代をしたりとか、流れができてしまう中ではそこまではいけない。スポーツ自体がとても流れていくスポーツなので選手がやりきる力を成長させたい。このやり方で彼らが成功、失敗を経験し、社会で生きていくモノをつかんでいければいい」と哲学を明かした。選手として、1人の人間として、成長を促すスタイルは慶応・森林監督と共通していた。

 毎年、記者は故郷に帰省することなく年末の高校サッカー取材を希望する。「そんなにサッカーが好きなのか?」と上司から不思議な顔をされるが、新しい発見をもたらしてくれる機会は何より貴重だ。2024年末もシフト表に「高校サッカー希望」と記したい。
(アマチュア野球担当・柳内 遼平)

続きを表示

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2024年1月2日のニュース