七戸の言葉に見た柔道男子超級“美しき敗者”の姿

[ 2016年5月7日 08:30 ]

柔道男子100キロ超級の七戸龍

 さまざまな競技で次々に五輪代表が決まっている。きらめく称賛を浴びる勝者がいれば、人生を賭した日々の甲斐なく夢破れた敗者もいる。

 柔道では4月29日の全日本選手権で最後の代表が決まった。男子100キロ超級は進境著しい原沢久喜(23=日本中央競馬会)が選ばれ、世界選手権2年連続銀メダリストの七戸龍(27=九州電力)は涙をのんだ。

 大会の翌日、七戸は自らのツイッターを更新した。

 「ロンドンから重量級が低迷してると言われる事が悔しく自分の手で変えたいという思いで突っ走ってきました

 原沢選手に託すことになりましたが全階級金を取れる力を持っています

 日本柔道の応援よろしくお願いします」

 長く代表レースの先頭を走ってきたが、昨年12月のグランドスラム東京の初戦で膝を負傷。佳境を迎える中で最後まで万全の状態で臨めない不運があった。世界選手権での銀メダルは闇夜を照らす灯台のように原沢ら若手に進む道を示し、低迷する日本重量級の活路を開いた自負もあっただろう。だが全てをのみこんで、原沢と日本代表の活躍に思いを込めた。“よき敗者”の姿がそこにはあった。

 原沢の恩師、日大の金野潤監督はそのツイッターを目にし、「男気に感服した」と九州電力の江上忠孝監督にメールを送った。江上氏から届いた返信には、原沢の柔道の技量、人柄を称えつつ、こんな激励の言葉が添えられていた。

 「打倒、フランス国の絶対王者リネール。七戸の魂、王子谷選手の魂、上川選手の魂…、代表を争った者たちの魂は、みんな、原沢選手と共に、リオ・オリンピックの舞台で原沢選手と一緒に戦います。

 本番では原沢選手らしい一本柔道を展開し、王者リネールを倒し、金メダルを胸に、君が代を、日の丸を掲げてほしいと、心から願っています!!

 原沢選手のおかげで、また、日本柔道重量級のレベルが上がり、七戸も人間として成長することができました。本当に感謝です」

 最後は「頑張れ、原沢選手!!頑張れ、金野先生!!」という言葉で締められていた。それを読んで金野氏は思わず涙し、メールを原沢にも転送したという。

 代表を争ったライバルや指導者たち。男たちの“挽歌”の先にリオの畳はある。最近やたらと不祥事が目につくスポーツ界にあって、そこには忘れかけていた純粋さがあるように思える。

 ロマンチシズムばかりで乗り越えられるほど、世界選手権7連覇のテディ・リネール(フランス)の壁は低くはない。だが彼らの魂が原沢を最後に一押しするはず。そう信じて本番を待ちたい。(雨宮 圭吾)

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2016年5月7日のニュース