来年から長尺パター禁止…それでも吉田弓美子が相棒使った理由とは

[ 2015年12月3日 09:08 ]

長尺パターを使う吉田弓美子

 刻一刻とその時が迫っている。ゴルフ競技では16年1月からパッティングの際に体の一部にクラブを固定させてストロークを行う「アンカリング」が禁止される。長年、長尺パターを愛用してきた吉田弓美子(28=フリー)にとってルール改正は「これから私はどうなるんだろう」と途方に暮れるほど重苦しい宣告だった。

 もともと研修生時代にぎっくり腰を発症し、腰痛に悩んできた吉田は10年から腰に負担の少ない長尺パターを使い始めた。13年には相棒とともに年間3勝を挙げ、賞金ランク5位に。充実のシーズンを過ごした。14年終盤からアンカリング禁止を見据えて通常の長さのパターで戦ったが、この年は未勝利。そこで、オフシーズンは「これでダメなら第2の人生を考える」というほど追い込んで練習に取り組んだ。

 その努力は5月の中京テレビ・ブリヂストン・レディースで実を結ぶ。最終18番で1メートルに満たないウイニングパットを沈めた吉田は目に涙を浮かべ、2年ぶりの通算5勝目を達成。初めて普通の長さのパターで手にした勝利に「第2のゴルフ人生の幕開けです」と喜びもひとしおだった。

 11月上旬のTOTOジャパン・クラシック指定練習日に吉田がこっそりと耳打ちしてくれた。「実は、最終戦(ツアー選手権リコー杯)で長尺パターを使おうと思ってるんだ」。いわく“元カレとの思い出作りキャンペーン”。笑顔でそう語っていた吉田だが、試合が始まるとその弾けるような笑顔が影を潜めていく。「ショットはすごく良かったのに、1メートルもないパットが(カップに)かすりもしなかった」と違和感を抱き始めると、翌週の伊藤園レディースでは「私ってどうやって打っていたんだっけ。構えてもどこを向いているのか分からない」と極度の不振に陥った。急きょ、最終戦前の大王製紙エリエール・レディースから長尺パターの投入を決めた。

 決断には相当の勇気を要したという。年明けと同時にアンカリングが禁止されるこの時期に元のパターに戻していいのか。何より普通のパターで優勝した自負もある。それでも、「このままだとゴルフが嫌いになると思った」。長尺パターがグリーン上での精神安定剤になれば…。その思いで再投入を決めた。「長尺を使うことで現状を打破できたら良い」という思惑ははまり、大王製紙エリエール・レディースを9位で終えると、最終戦では第2ラウンドに8バーディーを量産する活躍もあって最終的に限られた選手しか出場できないメジャーの舞台で3位に入った。

 来たる新シーズン、吉田が長尺パターを手にすることはもうない。出会いと別れ、そして束の間の再会。ちょっぴり背の高い“元カレ”は28歳の実力者に再びの自信をプレゼントして静かに姿を消した。(井上 侑香)

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2015年12月3日のニュース