絶品!さん喬の「柳田格之進」にすすり泣きも漏れた

[ 2023年10月31日 20:01 ]

700回の記念公演を迎えた紀伊國屋寄席。手ぬぐいんが観客に配られた
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】オリックスと阪神が激突した今年の日本シリーズ。関西同士の激突は1964年の「阪神―南海」以来59年ぶりというから、西の盛り上がりは大変なものがある。

 東京五輪が開催された64年。この年、新宿の紀伊國屋書店内にあるホールで、その名も「紀伊國屋寄席」が産声をあげている。1カ月に1度のペースで開催され、10月30日に700回の節目を迎えた。継続は力なり。立派なものだ。

 記念の公演にふさわしく豪華な出演者が顔をそろえた。
 ◇柳家喬太郎 「花筏」
 ◇柳家花緑 「野ざらし」
 ◇柳亭市馬 「穴どろ」
 仲入後は
 ◇柳家小さん 「湯屋番」
 ◇林家正楽の紙切り
 ◇柳家さん喬 「柳田格之進」

 出演者の名前がプリントされた手ぬぐいの入場者プレゼントがうれしい。柿の種の小袋もかわいらしかった。

 開口一番の前座が下り、先陣を切ったのは当代屈指の人気と実力を誇る柳家喬太郎(59)だ。「足の具合が悪い」と観客に断りを入れ、「膝隠し」を使った高座。大師匠の五代目柳家小さん師との食べ物にまつわるエピソードをマクラでたっぷり振って笑わせた後に相撲ネタの「花筏」に入った。

 体調不良の花筏の代わりに体格が似ている提灯屋が駆り出される噺だが、トップバッターとして程よく会場の雰囲気を醸成していったのは見事だった。

 柳家花緑(52)の「野ざらし」は、三代目春風亭柳好師の歌い調子が今なお耳に残っているせいか、うまく噺に乗れなかった。次の柳亭市馬(61)は「穴どろ」をかけたが、700回の景気づけに陽気な歌を散りばめた演目を聴きたかった。

 仲入後に上がった六代目柳家小さん(76)は可もなく不可もなし。膝代わりを務めた紙切りの林家正楽(75)はさすがだった。観客からのリクエスト「二刀流 大谷翔平」「七五三」にも巧みに応えて会場をドッと沸かす。まさしくトリにつなぐ名人芸だ。

 そしてしんがり。柳家さん喬(75)の「柳田格之進」は絶品だった。彦根の城主・井伊氏の元家来で、正直すぎて人に疎まれ浪人している格之進が主人公。質屋の万屋現源兵衛宅で碁を打って帰宅するが、万屋では番頭が集金した50両が紛失する騒ぎが起きて…といった人情噺。

 さん喬の語りに観客は息をのんで聞き入り、クライマックスでは客席からすすり泣く声も聞こえたほどだ。先ごろ、五街道雲助(75)が人間国宝に認定されたが、さん喬も有力候補だったと見る人がいる。五代目小さん、十代目柳家小三治に続き、さん喬が選ばれれば三代続いての柳家。それが敬遠され、古今亭・金原亭系の雲助になったとの指摘だ。真偽は不明だが、「なるほど、そういうこともあるか」と納得しそうにもなる。この夜の「柳田格之進」は思わず拝みたくなるほど、ありがたい高座であった。

 ちなみに来年4月には、この「格之進」をもとにした映画「碁盤斬り」が公開される。「孤狼の血」の白石和彌監督(48)の演出で、草なぎ剛(49)が主演する。こちらも楽しみに待ちたい。また日本コロムビアが700回記念のCDボックスを制作中ということで、過去の至芸、名演が聞けるのは何よりだ。

 さて、節目の700回を超え、「紀伊國屋寄席」は11月22日に701回目が開催される。春風亭昇太(63)が「茶の湯」をかけ、トリは人間国宝の五雲助が「お直し」を披露する。師匠の十代目金原亭馬生の父で、昭和の名人と言われた五代目古今亭志ん生が十八番とした演目。紀伊國屋寄席のますますの発展を願わずにはおられない。

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