「シン・文七元結」山田演出に拍手喝采

[ 2023年10月20日 16:00 ]

「錦秋十月大歌舞伎」の制作会見に出席した際の(左から)寺島しのぶ、中村獅童、山田洋次監督
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】「錦秋十月大歌舞伎」公演中の東京・歌舞伎座。18日の「昼の部」に足を運んだ。山田洋次監督(92)が新たな構想の下に脚本を書き、演出を手掛けた「文七元結物語」を観劇、シャレではないが大いに感激した。

 「文七元結」は幕末から明治にかけて活躍し、落語中興の祖とも言われる三遊亭円朝が創作した人情噺。古今亭志ん生、三遊亭円生、彦六で死んだ八代目林家正蔵、古今亭志ん朝、立川談志、柳家小三治と、そうそうたる名人、上手が高座にかけてきた名作だ。

 博打にのめり込み借金を重ねる左官職人の長兵衛。後妻のお兼もあきれるばかりで夫婦げんかが絶えない。見かねた娘のお久が父親の借金を清算し、両親が仲睦まじくなるようにと吉原に身を売ってお金を工面しようとする。健気なお久に心動かされたのが吉原角海老の女将・お駒だ。長兵衛を呼びつけ、50両を貸し付けるが、家路についた吾妻橋の上で今にも身投げをしようとしている男と遭遇。鼈甲(べっこう)問屋「近江屋」手代の文七だった…。

 ざっとこんなあらすじ。落語では角海老ではなく佐野槌(さのづち)で語られることが多いが、演者が女将の器量をきっちり表現できるかどうかが噺の肝。この女将の出来不出来で噺の成否が決まると、個人的にはそう思っている。

 五代目柳家小さんのために「真二つ」「頓馬の使者」「目玉」という3本の新作を提供するなど落語に造詣の深い山田監督もお駒とお久の出会いの場合を冒頭に持って来た。お駒を演じた片岡孝太郎(55)が見事。「苦界10年」とも言われる吉原で生き抜いてきた自信が成せる貫目だけでなく、情にもろいところも巧みに演じ切り、「ここで作品の成功は決まった」と勝手に合点した次第。お久を演じた中村玉太郎の可れんさにも目を奪われた。ちなみに玉太郎は22日で23歳になる。

 長兵衛役の中村獅童(51)と女房役の寺島しのぶ(50)の夫婦愛には泣けて笑えて、そしてジーンと来た。吾妻橋での長兵衛と文七(坂東新悟)の50両をめぐるやりとりもむろん大きな見どころの1つだが、橋を回転させて、こちらから向こうから立体的に見せる演出はユニークでおもしろかった。

 獅童、寺島はじめ出演者のセリフは総じて聞きやすかった。関係者によれば、稽古の時から山田監督は「(観客に)聞こえやすいように」と強く求めていたという。山あり谷ありのドラマを山田監督らしいまろやかさに包んで江戸に暮らす市井の人々の情景を浮き彫りにしていく手法はさすがだった。近江屋卯兵衛を演じた坂東彌十郎(67)もさすがの貫禄。拍手を贈りたい。

 前半の「天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)」も見応え十分。主人公の天竺徳兵衛を演じた尾上松緑(48)が素晴らしい。辰之助時代に市川新之助(現團十郎=45)、尾上菊之助(46)と「平成の三之助」と呼ばれて期待を背負い、02年に四代目を襲名。父の初代辰之助さんが40歳の若さで亡くなったのは1987年3月のこと。赤坂だったか、自宅に取材に飛んでいった記憶がよみがえった。感慨深い。舞台は25日まで。

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