「らんまん」最終盤突入　生きる「八犬伝オタク」の伏線

連続テレビ小説「らんまん」の万太郎（神木隆之介）と寿恵子（浜辺美波）（C）NHK
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　【牧　元一の孤人焦点】NHK連続テレビ小説「らんまん」でチーフ演出を務める渡邊良雄氏がインタビューに応じ、物語最終盤の要点などについて語った。

　──今週以降の物語の要点についてお聞かせください。
　「第25週で関東大震災を描きました。関東大震災は1923年（大正12年）で、万太郎と寿恵子は初老を迎えています。万太郎は自分が抱いた夢をどれだけ実現できているのかということを改めて問い直します。寿恵子も待合茶屋で成功を収めて達成感を得ましたが、そんな夫の姿を見て、自分が夫の夢のためにどれだけ力になれているのかということを改めて考えます。震災を契機に2人の状況が大きく動きます」

　──万太郎は物語前半までドラマのタイトル通り天真爛漫でしたが、後半以降は徐々に爛漫という感じではなくなっています。
　「最初の頃、僕らは万太郎を天才として描こうと思った時期もありました。万太郎は自分が好きなものに向けてはどんな障害でも乗り越えて一途になれる。それも天才と言えば天才ですが、一方で、何か斬新な発想をする人、凄い発明をする人ではない。天才として描くのは少し違うと思いました。社会情勢が変化し、組織の一員として働く中で年齢を重ねるごとに万太郎はただ好きというだけで突き進むのは難しいことなのだと分かっていきます。組織の中の自分と純粋に植物が好きな自分の葛藤があって爛漫ではいられなくなる。ただ、考え方の変化はありつつも彼の気持ちは植物への愛情で満ちあふれていて、そういう意味で爛漫さは残っています。僕らはそのように作ってきました」

　──天真爛漫だった万太郎が年齢を重ねて変わっていくのは自然の流れに感じます。
　「万太郎は好きなことをやるために家庭を犠牲にしています。かつては竹雄が支えていたし、結婚した後は寿恵子が支えてきました。万太郎を家庭人として考えた場合、やはりどうしても問題のある人に見えるので、僕らは万太郎がただ好きなことをやっているだけでは済まされないという部分を描く必要がありました。ただし、寿恵子は1番の『万太郎オタク』なので、自分が万太郎を支えることに全く疑問を抱いていない。万太郎のことが好きな寿恵子が、植物が好きな万太郎を大きく包んで肯定しているという構図です」

　──ここ最近の物語では寿恵子が待合茶屋を開いて成功させるなど、万太郎ではなく寿恵子が物語自体を引っ張っている感じでしたが、そのような寿恵子の人間的な強さについてはどう考えていますか？
　「この作品のために勉強を始めた時、寿恵子のモデルとなった壽衛さんが待合茶屋を開いて借金を返したという史実を知って驚き、面白いと思いました。壽衛さんがどのようないきさつで商売を始めたかということに関してはいろいろな説があるのですが、このドラマの寿恵子については彼女の冒険心から生まれたものだと考えました。万太郎と結婚することも彼女にとっては冒険で、それは折に触れて描いてきましたが、寿恵子自身の人生で突き抜ける部分があるとすれば何だろうと考えた時、待合茶屋で商売を始め、自分の資質に気づき、達成感を得て、それが万太郎を支えることにつながるという展開があればいいと思いました」

　──「冒険」という観点では物語前半で寿恵子が「南総里見八犬伝」のオタクとして描かれたことが伏線として生きているように感じます。
　「八犬伝に関しては脚本の長田育恵さんと打ち合わせをした時、寿恵子が万太郎のことを好きになる理由を考えるところから始まった気がします。コンサバティブな女性、特に寿恵子のような出自の女性の場合、結婚相手には安定した生活ができる男性、お金を稼ぐ能力がある男性を選ぶのが自然でしょう。どうすれば、植物が好きで植物の図鑑を作ることだけを目標に生きる男性にひかれるという話が成立するか？それには、彼女自身にオタク気質があればいいと考えました。植物が好きな万太郎に対し、冒険ものの八犬伝が好きな寿恵子というキャラクターにすることで、2人のかみ合わせが良くなると思いました」

　──それが結果的に良い伏線になったと思います。
　「寿恵子の冒険とは何か？彼女が貧乏の中で一生懸命に内職しながら夫の植物研究を支えたのも冒険でしたが、もう少し突き抜けたいということで、待合茶屋を立ち上げることにつながりました」

　最終回まで残りあとわずか。万太郎と寿恵子はどこへ向かうのか…。見逃せない展開が続く。

　◆牧　元一（まき・もとかず）　編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。