「スパイの妻」の黒沢清監督 ベネチア国際映画祭で銀獅子賞 北野武監督以来17年ぶり

[ 2020年9月14日 05:30 ]

ベネチア国際映画祭

監督賞を受賞し、ZOOM会見で喜びを語る黒沢清監督

 第77回ベネチア国際映画祭の授賞式が12日(日本時間13日)行われ、コンペティション部門に出品された「スパイの妻」の黒沢清監督(65)が監督賞(銀獅子賞)を受賞した。日本人の同賞は03年「座頭市」の北野武監督(73)以来17年ぶり。世界3大映画祭のメイン部門での戴冠はコロナ禍にあって久々の明るいニュースとなった。

 伝統の映画祭も新様式となった。レッドカーペットを歩くマスク姿のスターたちと感染防止のための長い壁。黒沢監督もコロナ禍でイタリア入りを断念。都内で行ったオンライン記者会見では「賞まで頂けるなら本当に行きたかった」と喜びの中に残念さをにじませた。

 最高賞の金獅子賞に次ぐ栄誉。黒沢監督が3大映画祭のコンペティション部門で主要賞に輝くのは初めてで、ベネチアのコンペに選出されたのも初めてだった。「その時点で運を使い果たしたと思っていたけれど、まだちょっとは残っていたのかな。作品の評価は審査員の反応もあるし、時の運。それが最後まで味方をしてくれた」としみじみと語った。

 「スパイの妻」は1940年代の神戸を舞台に軍の国家機密を知り世に知らしめようとした貿易商と思いに添い遂げようとした妻の物語。黒沢監督が東京芸大の教え子の濱口竜介(41)、野原位(37)両氏と共同で脚本を手掛けたオリジナル作品で「2人が書いた脚本が本当に面白く、すぐに撮りたいと思った。僕が参加したのは2割にも満たない」と後輩を称えた。

 今年のベネチアは、コロナ禍の中で初めて観客を入れて開催される大きな映画祭として注目を集めたが、レッドカーペットに一般客が近づくことは禁止され、授賞式も金獅子賞を獲得した「ノマドランド」の監督をはじめ主要な受賞者は欠席。黒沢監督も出演の蒼井優(35)、高橋一生(39)とともに公式会見にリモートで参加していた。「(審査委員長の俳優)ケイト・ブランシェットの手から何かを頂けたら、いい思い出になったでしょうね」とも語る。それでも、北野監督に続く17年ぶりの快挙でベネチアの歴史に名を刻み「信じてきた道は間違いではなかった」と自負ものぞかせた。ホラーをはじめジャンル映画に定評がある。「巨匠は世界に山ほどいるが、そういう人たちに一歩でも近づければと思っています」とさらなる意欲を見せた。

 ◆黒沢 清(くろさわ・きよし)1955年(昭30)7月19日生まれ、兵庫県神戸市出身の65歳。立大在学中に8ミリ映画を作り始める。相米慎二監督らの助監督を経て、83年にピンク映画「神田川淫乱戦争」で監督デビュー。「トウキョウソナタ」(08年)「岸辺の旅」(15年)がカンヌ映画祭で受賞するなど、海外では「もう一人のクロサワ」と呼ばれて人気。現在、東京芸大大学院映像研究科映像専攻教授。

 ◇「スパイの妻」 1940年、神戸で貿易会社を営む優作(高橋)は、出張先の満州で恐ろしい国家機密を知る。正義のためにそのことを世に知らしめようとする夫に、妻の聡子(蒼井)の不安は募るばかり。だが、反逆者といわれる夫を信じ、愛を貫くために行動を共にすることを決意する。元々はNHKの8Kドラマとして制作され、劇場版として再編集された。日本公開は10月16日。

 ▽ベネチア国際映画祭 仏カンヌ、独ベルリンと並ぶ世界3大映画祭の一つで、イタリア北部ベネチアのリド島で開かれる。1932年に始まり、主要な映画祭では世界最古の歴史を持つ。最高賞「金獅子賞」は、日本では過去に黒澤明監督「羅生門」(51年)、稲垣浩監督「無法松の一生」(58年)、北野武監督「HANA―BI」(97年)の3作が受賞。05年には宮崎駿監督が栄誉金獅子賞を贈られている。

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