豊饒の地

[ 2019年12月10日 08:00 ]

長野県東御市に完成した国内初の高地トレーニング用プールで泳ぎ込む瀬戸大也
Photo By 共同

 【我満晴朗 こう見えても新人類】長野県の東御市って、ご存じですか?

 誠に失礼ながら「とうみ」と正確に読めるのは地元に縁のある皆さんに限られるかもしれない。長野支局に勤務していた筆者でさえ、この原稿をパソコンで打つ際に「とおみ」と入力して変換に失敗する始末だ。情けない。

 別にディスる意図ではないので弁解すると、個人的に東御市の印象度はかなり高い。なぜなら、実においしいワインの産地だから。

 話は7年前にさかのぼる。同市内でワインフェスタがあり、エッセイストかつ画家としても有名な玉村豊男氏が登壇すると聞いて取材に向かった。

 東大仏文科卒、パリ留学経験あり。そんな経歴からは近寄り難いインテリというか、厳格な哲学者っぽい印象を持ってしまうのだが、名刺交換後の第一声はニコニコしながら「あっスポニチさん。毎日読んでますよ」だった。人当たりの柔らかい、なんとも気さくな対応は20代半ばに愛読した「パリ 旅の雑学ノート」の軽妙洒脱(しゃだつ)でユーモアあふれるな文体そのまま。余談だがこの本のおかげでフランス出張時に食事や買い物が楽しくなった個人的体験を持っている。ささやかながら謝意を伝えると恥ずかしそうにほほえんでいた。

 玉村氏は同市内のワイナリー「ヴィラデスト」のオーナーでもある。1990年代初め、ほぼ荒れ地だった標高850メートルの土地を開墾。当時は誰も見向きもしなかったワイン作りに辛抱強く取り組んできた。

 フェスタの翌年には現地を取材。「プリマベーラ メルロー 2011」を購入して試飲した第一印象は「これ、ホントに国産?」だった。グルメではなくグルマンを自任する筆者の感想は信ぴょう性に欠けるけれども、例えば「ヴィニュロンズリザーブ シャルドネ 2014」が16年伊勢志摩サミットのワーキングディナーで提供されたというエピソードを聞けば、その評判のほどは理解していただけるはず。

 同氏の事業が嚆矢(こうし)となり、現在、東御市内にはワイナリーが10カ所、ヴィンヤードが8カ所もある。だから東御を「とうみ」と読める人は、かなりのワイン好きではなかろうか。

 その東御市の標高1750メートルに位置する「GMOアスリーツパーク湯の丸」では競泳のナショナルチームが強化合宿を張ったというニュースも流れた。

 美味なる葡萄酒を生み出す同じ土地で、世界の頂点を目指す一流アスリートが精進している。

 高地トレーニング効果で2020年に好成績を挙げた暁には東御ワインを祝杯としていかがだろう。(専門委員)

続きを表示

2019年12月10日のニュース