秋なので

[ 2019年10月10日 09:00 ]

根鈴雄次さん
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 【我満晴朗 こう見えても新人類】ラグビーW杯で異様に盛り上がる周囲とは裏腹に、ひねくれ者の筆者は楕円球とは縁のない本を読みふけってしまった。

 まずは「不登校からメジャーへ イチローを超えかけた男」(喜瀬雅則著=光文社新書)。MLBモントリオール・エクスポズ傘下のAAAでプレーし、もしかしたらあのイチローより早くメジャーデビューしていたかもしれない根鈴(ねれい)雄次氏のノンフィクションだ。

 彼とは12年ほど前、独立リーグの新潟でプレーしていた際に取材した間柄。その数奇な野球人生については基礎知識として知っていたが、まさか引きこもりを経験していたとは。現在は神奈川県横浜市内で自身の野球塾を運営し、メジャーでタイトルを取れるような強打者を育てるのが夢と聞いた。教え子の中には志高く渡米してプレーを続ける選手もいる。近い将来、そんな彼らがひのき舞台に立った際にはぜひとも再取材したい人物でもある。

 野球絡みで次に手を出したのは、元ロッテ投手で江戸川大教授の小林至氏による最新著作「プロ野球ビジネスのダイバーシティ戦略」(PHP研究所)。同教授はスポーツに関する経済学が専門で、かつてはソフトバンク球団の経営にも携わっていただけに、内容のクオリティーは高い。

 米国ではMLBだけでなく傘下のマイナー球団や独立リーグ(IL)球団が国内に散在し、それぞれが独立採算でチームを運営している。その経営状態をつぶさに調べて日本球界と比較した考察が興味深い。日米ともに野球大国ではあるが、ビジネスの観点からすると日本の、特にILに関してはどうしても貧弱だ。今やプロ球界への貴重な人材供給の場となったILの今後についてはかなり思い切った提言を行っている。野球ファンのみならず、スポーツビジネスに興味のある学生にお勧めの一冊だ。

 9月下旬に取材したイベントで羽生善治九段が言及したのが行動経済学。早速、入門書でもある「ファスト&スロー」(ダニエル・カーネマン著=ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の上下巻も四苦八苦しながら読破した。古典的な経済学に疑問符を投げかけた心理学者が、人間ならではの一貫性のない経済行動を分析してセンセーションを巻き起こしたベストセラー。人間の意思決定は「早い」思考と「遅い」思考の2種類があり、いずれも本人は合理的と信じているのだが…といった内容だ。それにしても羽生九段、好奇心の幅広さには驚くばかり。

 「人は無意識に間違った選択をする」という行動経済学理論とは全く関係ないけども、「まちがう人」(ダイヤモンド社)も面白かった。某広告代理店に務める「和田さん」の勘違い発言・行動を一冊にまとめたもので、あのさくらももこ氏もいちいち大受けだったとか。この「和田さん」、実は筆者の知人の上司だったというから、世の中狭すぎる。

 …そろそろラグビー本でも読まなきゃと思いつつ、秋の夜は更けていくんだな、これが。(専門委員)

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2019年10月10日のニュース