阪神・藤浪、692日ぶり1勝――凶夢に、激痛に、10円ハゲに、コロナに「やっと勝てた」

[ 2020年8月22日 05:30 ]

セ・リーグ   阪神7-4ヤクルト ( 2020年8月21日    神宮 )

<ヤ・神(10)>3回、ボーアの中越え2ランが飛び出し、ガッツポーズを見せる藤浪(撮影・大森 寛明)
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 阪神の藤浪晋太郎投手(26)が、21日のヤクルト戦で6回1/3を6安打4失点の力投を見せ、692日ぶりの白星を手にした。勝てなかった2年間、人知れずさまざまな困難に直面してきた右腕。それでも、気持ちだけは折れず鍛錬の日々を送ってきた。苦しみながらも口にした勝利の味をもう忘れない。藤浪は強くなって帰ってきた。 

 苦しんでつかんだ白星は悩みながら歩んだ692日間の道程そのものだ。叫んだ夜も、痛みに耐えた朝も、そして頭部にできた“穴”も…すべてはこの夜の再出発で報われた。

 「(勝って)ちょっと楽になれたかなと。今シーズンも勝てない投球が続いていたので、やっと勝てた気持ちが一番強いです」

 全身から勝利への執念がにじみ出た。2回1死満塁では全力疾走で三塁への適時内野安打をもぎ取り、チーム38イニングぶりの得点を生んだ。「一生懸命走っていたし、結果として良いように動いた要因かなと」。直後には上本の二邪飛でタッチアップを敢行し本塁に生還。マウンドでは、毎回のように走者を背負いながら、もらった援護点を懸命に守った。

 「苦しいことばかりだったように思いますし、つらいことが多かったですけどコツコツやるしかないと思って」

 17年から始まったマウンドでの苦闘は、心身を激しくえぐった。「生活態度とか、藤浪はあいさつをしないとか、すごく言われるようになった。仲良い若い選手も実は俺のことそう思ってるんや、とか。センターのところで息が上がって倒れてたら“あいつまた休憩して”と思われてるんやろな、とかそんなことしか考えてなかった」。何かに追われ、おびえる日々。目を閉じても地獄が待っていた。

 「本当に叫んで起きる。夜中に“うわー”って絶叫して。ドラマでよく見るような…。まさか自分が経験すると思ってなかった」

 悪夢は連鎖する。程なくして、強いストレスを感じた際に多い、歯が折れる「凶夢」を体験。「夢の中で物を食べてたら自分の歯がぐらぐらしてきて…口の中が歯の破片だらけになって目が覚めるんですよ。何回も」

 18年のある夜には、首から背中にかけて強烈な張りと激痛を併発し、夜明けまで布団の中で動けなくなった。「自律神経が整わなくなって、目をつむっても全く寝れなくて。朝になって鏡を見たら自分の顔が真っ青になってました」。故障知らずでならした男の体はボロボロだった。“限界”を悟ったのは、鏡に映った頭部の異変。円形脱毛症だった。

 「この辺(頭部)に“10円ハゲ”ができて。ここまでなると、さすがにショックでしたね。すごいストレスだったんだなと」。顔を変え、形を変え襲ってきた“痛み”にも必死に耐えながら前進してきた。試合後、「人の痛みが分かる。人間として一つ大きくなれた」と柔らかな声とともにうなずいた。

 敵地ながら、久々に分かち合えた勝利の瞬間。もう忘れたくない。「すごい拍手もらいましたし、次また頑張ろうと。失点が多いのでピリッとした試合をつくっていきたい」。この2年間、自らに言い聞かせるように口にしてきた言葉がある。

 「1つ勝っただけで喜んでもらってるようじゃダメなんで」。どん底から自力で踏み出した一歩が、藤浪のリスタートを告げた。(遠藤 礼)

 《投手の決勝打は2年ぶり》藤浪(神)が2回に決勝の三塁内野安打。阪神投手の決勝打は18年8月18日ヤクルト戦の小野以来2年ぶりとなった。藤浪の安打は18年9月29日の中日戦で2安打して以来。決勝打は15年8月14日ヤクルト戦以来5年ぶり2度目となった。

 【藤浪 空白の691日】
 ▼18年9月29日 中日戦で完封。通算50勝。
 ▼10月6日 DeNA戦は7回3失点で勝敗付かず。
 ▼19年3月29日 オープン戦の不調からプロ入り初の開幕2軍。
 ▼8月1日 中日戦で299日ぶりに1軍登板し、4回1/3を4安打8四死球の1失点で勝敗なし。翌2日に登録外。
 ▼11月1日 高知・安芸での秋季キャンプに参加。山本昌臨時コーチの指導を受ける。
 ▼12月6日 契約更改で2100万円減の6300万円(推定)。4年連続の減俸
 ▼20年3月26日 新型コロナウイルス感染が判明し、4月7日まで入院。
 ▼5月28日 1軍練習に遅刻し、翌29日に2軍降格。
 ▼6月3日 ソフトバンク2軍との練習試合で右胸の張りを訴え2回0/3緊急降板。
 ▼7月16日 ウエスタン・オリックス戦に先発して今年最長の7回無失点。直近4試合で16イニング連続零封。
 ▼同23日 広島戦で357日ぶり1軍登板し、6回0/34失点で黒星。5回まで無失点も、6回ピレラに満塁被弾。
 ▼同30日 ヤクルト戦は7回4失点(自責1)で黒星。10三振を奪い、18年4月20日の巨人戦以来の2桁奪三振。

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