胸に響く阪神・岩田だからこその芯の強いメッセージ

[ 2020年6月7日 09:00 ]

阪神・岩田
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 プロ野球は2日から練習試合が再開するなど「6・19」の開幕に向けて12球団の調整のペースが上がってきた。我々報道陣も球場での取材が限定的ながら許可されるなど、徐々に在宅でのオンライン取材が続いた日々から抜け出しつつある。

 阪神では自主練習が始まった4月15日からウェブ会議システム「Zoom」を用いたオンライン取材の場が設けられた。福留、能見らベテランから西勇、梅野らの中堅勢、ボーアやサンズら新助っ人まで1軍級の選手たちが自身の調整や「おうち時間」の過ごし方、コロナ禍を過ごす人々へのエールなど様々な思いを画面越しに語ってくれた。

 特に印象に残ったのが、プロ15年目を迎える岩田稔投手(36)だった。4月26日にオンライン取材に対応した左腕は、「おうち時間」のストレス解消法としてとにかく笑うことを挙げ、古代中国の戦国時代を描いた武将漫画『キングダム』や『浦安鉄筋家族』を大人買いしたエピソードを披露。新たにスケートボードに挑戦するも、携帯の画面を割ったために断念したことも明かしてくれた。「生活の中で結構面白いことがいろいろ起きるんで。楽しいことは笑ったら良いと思う。家族の中でも、ちょっとでもなんかあったら拾ってしまいますよね。楽しく過ごさせていただいている感じですかね」。3人の子の父親でもある岩田のシンプルな考えを表した言葉は、自粛疲れの心に強く刺さるものがあった。

 5月18日には1型糖尿病の根治を目指す研究助成として、NPO法人「日本IDDMネットワーク」とともに17年に設立した「岩田稔基金」の助成先が決定。再びオンライン取材に応えた岩田は自分の冠のついた基金が形となったことを喜びつつ、「僕自身、患者会とかそういう会がある所に全国回れていないんですよね。特定の所にしか行けてないので、体一つしかないですけど、全国回れるようなことをしていきたいなとは思っています」と1型糖尿病患者で唯一のプロ野球選手として、同じ病気の人々へ勇気を与えるべく更なる活躍を誓った。

 この取材でも胸に響いた言葉があった。コロナ禍で好きなスポーツがしたくてもできない高校生に、かけてあげたい言葉を問われたときである。高校2年の冬に1型糖尿病を発症し、野球がしたくてもできない時期を過ごした岩田は「今の状況と僕が高校生のときになった状況っていうのはやっぱり違うと思うんですけど」と前置きしつつ、学生たちへ願いにも似たようなメッセージを送った。

 「今までやってきたことは決して無駄なことはないと思うので。これから将来どういう形で皆さんが進んでいくかどうかは分からないんですけど、一つの自信として。進学するのか、就職するのかはちょっと分からないですけど、今までやってきたことに自信を持って生活、練習に取り組んでいって欲しいなと思います」

 幾多の苦難を乗り越えながらプロとして長く活躍しつつ、一つの形としての社会貢献も果たし続ける岩田だからこその、芯の強いメッセージだった。開幕が迫る中、現在はいつ1軍に呼ばれても最大限のパフォーマンスを出せるように鳴尾浜で調整を続けている。そんな左腕の円熟味あふれる投球と言葉を、これからも注目して見ていきたい。(記者コラム・阪井 日向)

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2020年6月7日のニュース