山本審判員 夢目前で開幕延期…1軍デビューへ鏡の前で「ストライク!」“ホーム”で磨くジャッジの切れ

[ 2020年4月13日 05:30 ]

コロナで野球が消えた【若手審判員】

毎日2時間規則書の前に向かう山本審判。規則書には実際にあったプレーのメモが書き込まれている

 球音とともに「ストライク」の声も消えた。新型コロナウイルスの感染拡大により、開幕が延期されているプロ野球。影響は、試合をさばくNPB審判員にも及ぶ。現在、自宅待機ながら、来るべき開幕を見据え、体と頭のトレーニングに励む若手審判員の現状に迫った。(柳内 遼平)

 プロ野球の開幕延期により、審判員の職場もなくなった。練習試合はパ・リーグが3月24日、セ・リーグが同27日から中止となり、2軍の練習試合も行われていない。選手同様に、審判員も感染防止のため、自宅待機の日々を過ごしている。

 5年目の山本力仁(りきと)審判員(25)は3月27日、仙台での2軍練習試合(楽天―巨人戦)を最後に自宅待機となった。「1軍のオープン戦が無観客になり、感染者も増えていたので、予感はあった。選手と同じく、検温や消毒などの対策はしていたが…」と残念そうに話す。

 一般的に審判員は2軍戦で経験を積み、5~10年目は1軍初出場や初球審を経験する大事な時期。山本審判員はこれまで1軍出場はないが、今オープン戦は5試合で1軍の試合に起用された。順調にステップを踏んでいる中で、コロナウイルスという見えない敵に水を差されてしまった。

 審判員にもブランクの影響はある。例年、キャンプから球団に同行し、ブルペンで見る約6000球とオープン戦出場を経て、プロの球筋を見極める「シーズンの目」を仕上げる。しかし、今はその場がない。それでも、山本審判員の表情は決して暗くない。「グラウンドやジムに行けなくても、できることはある」と自宅で体幹トレや腕立て、腹筋などの筋力トレに励む。自宅周辺のランニングも行っている。人と接触しないように距離は約3キロに制限している。

 自宅待機で生まれた時間を、有効活用しない手はない。「いつもできないことに、じっくりと打ち込むことができている。普段は気付けないことを気付くチャンス」と自らが出場した試合の映像を入念にチェック。動きの修正点をノートへ書き出し、鏡の前で「ストライク」「アウト」などの動作を繰り返し、切れを磨いている。

 ルールのさらなるインプットにも熱を入れる。「0から規則書を読み直し、突き詰めていきたい。覚えるコツは、守備妨害などのプレーが起きたことを想定し、規則を当てはめ、どんな体の動きをするかまで想定すること」。毎日2時間、200ページを超える規則書を頭と体に叩き込む。同期の審判員とも電話で意見交換。「規則について議論したり、現在の不安を話したり。ともに1軍を目指す仲間がいることを実感できるから、毎日のトレーニングも続けることができる」と話す。

 審判ができないストレスは、パズルで解消しているという。「夢中になって、1ピースずつ作り上げていく作業は審判と一緒」と山本審判員。開幕の先行きは見えないが、1軍のグラウンドに立つために、黙々とトレーニングを続けている。

 ◆山本 力仁(やまもと・りきと)1994年(平6)10月5日生まれ、広島県出身の25歳。高陽東卒。NPB審判5年目で1軍出場はなし。

 ≪20歳から59歳まで60人在籍≫NPB審判員は審判長、技術指導員、育成含め60人いる。現役最年長は佐藤純一審判員(59)で、最年少は育成の正木雄大審判員(20)。1軍は控えを含む5人、2軍は基本的に3人でクルーを編成。リーグ戦期間中は基本的に火曜から日曜まで試合に出場し、月曜は移動や休養に充てる。試合日は、試合前にブルペンや打撃ケージで目を慣らしたり、用具や球場のチェック、ボールの準備、メンバー表の交換などを行い、試合に臨む。

 ≪友寄審判長「練習試合で試合勘を取り戻したい」≫審判を取り巻く前例のない状況に、NPBの友寄正人審判長(62)は「長い人生の中でほんの少し、我慢すれば、必ず日常が帰ってくるから頑張ろう」と各審判員に呼びかけた。直接会うことはできないため、4日には電話で連絡を取り、健康状態を確認するとともに、予防の徹底を呼びかけた。現時点で審判員とその家族に感染者は出ていない。

 すでに試合がなくなって2週間近く。開幕延期による影響については「おのおのが試合に向けての調整方法を持っている。開幕までに開催されるであろう練習試合で試合勘を取り戻したい」と話した。

 開幕後の対応策も検討している。通常、クルーは1カードごとに組み合わせが変わるが、1人の審判員が多数の審判員と接触しないような配置を考えているという。韓国プロ野球(KBO)では、審判員がマスクを着用して試合に出場。友寄審判長は「現時点でマスクは考えていないが、今後そういう話が出れば、検討することはあると思う」と話した。

 ◆友寄 正人(ともよせ・まさと)1958年(昭33)1月26日生まれ、沖縄県出身の62歳。沖縄国際大卒。初出場は80年7月31日、阪神―中日15回戦(甲子園)の左翼線審。日本シリーズ13回、オールスター6回、通算3025試合出場。現在は現場を退き、審判長を務める。

続きを表示

この記事のフォト

2020年4月13日のニュース