【内田雅也の追球】読書は野球に通じる――キャンプ休日に何をするか?

[ 2020年2月13日 07:30 ]

宜野座村野球場の裏に掲げられた読書標語
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 巨人V9監督の名将、川上哲治はキャンプ中の休日に手紙を書き、選手たちにも勧めていたという。2013年に他界した後、「監督」ではなく「おやじさん」と呼んでいた黒江透修(ゆきのぶ)が毎日新聞『悼む』で書いていた。

 <キャンプ中も選手やコーチの自宅に「ご主人は頑張っています。何の心配もいりません」というはがきを毎回送っていた。われわれにも「休養日は体を休めるだけでなく、これまでお世話になった人に手紙を書く時間に充てなさい」と言っていた>。

 鬼にも見えた川上の気遣い、優しさが伝わる逸話である。相手の顔を思い浮かべ、感謝の心を文字にしたためる。感謝の力と言おうか。そうして巨人は9年連続日本一になったのだ。

 阪神は12日、今キャンプ2度目の休日だった。休日をどう過ごすか、何をするかは大切なテーマだろう。もちろん手紙もいいが、読書を勧めたい。

 日本ハム監督の栗山英樹が<読書は野球を助ける>と著書『野球が教えてくれたこと』(KADOKAWA)で書いている。<野球選手にとってフィジカルは常にメンタルの影響を受けます。すなわち心を整えることは結果を出すことへの近道であるとも言えます>。

 そのための読書で<本の中に見つける言葉は、スポーツの現場で何かを判断する時に何度も助けてくれるものでした>。

 また、栗山は「野球を極めたければ、野球以外のことをしろ」と選手たちに話していたそうだ。<現在持っている野球の能力にプラスアルファ、人とは異なる武器を持てるということです>。なかでも<最も身近でそれができるのが、読書です>。

 実は12日はわたし自身の誕生日でもあった。57歳になった。野球が好きでたまらず、野球記者になったわけだが、若いころ、恩師と呼べる会社の上司から「おまえは野球以外のことを知れ」「野球のない国へ行け」とよく言われていた。今ではその意味がよく分かる。視野の狭さが原稿の広がりや深みを妨げていたのだ。

 奥の深い野球はどこまで掘り下げても底が見えない。そんな畏れすら抱く野球に(あるいは人生に)、これからも向き合っていきたいと誓う。そのためには野球以上に野球以外の本が良き師となってくれるだろう。

 栗山は本で読んだエジソンや本田宗一郎や松下幸之助が皆、「成功するまでやり続ける」「あきらめなければ絶対に終わらない」といった失敗に対する不屈の姿勢だったことを知る。「球聖」とも呼ばれたベーブ・ルースも「あきらめないやつを打ち負かすことはできない」と語っている。

 実際に会えない偉人と本を通して出会い、対話できるのだ。
 阪神キャンプ本拠地の宜野座村野球場(かりゆしホテルズボールパーク宜野座)の場外、駐車場に「読書標語」が掲げられている。小中学生の応募作品から選ばれたものだ。

 「たくさんの 人生学べる 本の中」とあった。全くその通りである。

 阪神監督・矢野燿大も相当な読書家だ。現役引退から阪神コーチに復帰する5年間に多くの本に出会った。

 「あのユニホームを着ていない期間が大きかった。本を読み、人と出会い、人間的に成長できた。もちろん、野球にも通じている」

 当欄で幾度も書いてきたが、野球は人生の縮図だ。標語にあるように、人生を学べば、野球もうまくなるわけである。=敬称略=(編集委員)

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2020年2月13日のニュース