【全日本野球協会・山中新会長に聞く】大学野球部監督に求められる3つの役割

[ 2018年9月7日 10:30 ]

山中正竹氏
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 【伊藤幸男 一期一会】スポーツに興じる子どもが少なくなっている。特に野球人口の減少は顕著だ。プロ・アマ球界も危機感を共有し、様々な打開策を講じているが、いまだ効果は見えていない。今年5月、全日本野球協会(BFJ)会長に就任した山中正竹氏(71)は、指導者の力こそ大きな影響力があると考えている。同氏に(1)指導者論(2)スポーツの意味(3)大学野球部監督に求められる役割―をテーマに聞いてみた。

 大学の野球部監督の雇用形態は大きく分けて3つある。

 (1)大学職員(勤務していた企業を退職後、当該大学が雇用)

 (2)大学教員

 (3)社会人野球チーム保有の企業から出向(出向期間は企業ごとに違うが、指導期間は4年が大半)

 かつて(3)が主流だったものの、景気低迷と比例し企業の事情が変わってきた。「学生への恩返し」も含め多くの人材を出向させたが、業績低下で二の足を踏む社が多くなった。

 山中氏はバルセロナ五輪監督を退任後、94年法大野球部監督に就任。同大教授として教壇にも立った。

 「野球は子ども世代から何千人もの指導者がいる。ただ大学は違うんです。小学校―中学―高校の延長だったら意味ない。“オレはこうなりたい”と考える高校生に応えなければ。(1)高度な専門性(2)豊かな知識(3)技術指導。欧米並みの能力に対する対価は別にして、質の向上はされるべき、だと思います」

 ――技術指導に伴い過去の球歴は必要でしょう。

 「好ましくない指導者は凄いことをやったという蓄積をかさに、自分で論理的に説明することができない。過去の実績より、選手とのコミュニケーションを深め、信頼関係を築くことがリーダーシップの基本。指導者育成のプログラムを整備して、過去の実績にとらわれず、能力のある人が指導者となる平等性、チャンスイーブンを目指したい」

 ―知名度を上げたい大学経営の観点から難しいのでは。

 「大学は最高学府。高度な専門性、アカデミックでなければならない。さらにここで教育は完結しなくてはならない。野球の技術だけではなく歴史、社会、産業、医科学、社会学、国際産業、ビジネス、あるいはマスコミ論…。将来、社会で生きていく上で必要な事項を4年、あるいは6年間学んだら、それを後進を指導するため正しく理解し広めていく。責任の重い存在です」

 ―総括を含め、指導者とはどうあるべき?

 「優秀な野球人を育てるため、もう1度自己を高めて欲しい。指導者の力で未来の野球の発展を創り上げていく。そんなムーブメントを作っていきませんか、ということです。野球は、やる人(プレーヤー)だけでなく、支える人(ファン)によって支えられている。未来永劫、野球を愛する人々が多い方がいいに決まってます」

 ―最後に一言。

 「現在、スポーツ界で長年抱えていた問題が露呈しています。その意味で野球界だけではなく、指導者全体に求められるのはインティグリティ(高潔さ、誠実さ、品性)だと信じます。品性の劣化は知性の劣化を招く。そして知性の劣化は技術の劣化を招く。強いては、組織の劣化を招くんです」(完)

 ◆山中 正竹(やまなか・まさたけ)1947年(昭22)4月24日、大分県出身の71歳。佐伯鶴城から法大に進み、東京六大学史上最多の48勝。住友金属監督として82年都市対抗優勝。92年バルセロナ五輪では監督として銅メダルを獲得した。94年から法大監督として7度東京六大学リーグ優勝。03年からプロ野球横浜の専務取締役。16年野球殿堂入り。今年5月全日本野球協会(BFJ)新会長に就任。

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