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闘病中の妹に恩返し 葛西の思いが銀色のメダルに

[ 2014年2月17日 05:30 ]

念願のメダルを獲得した葛西は表彰台で歓喜のジャンプ!

ソチ五輪ジャンプ男子ラージヒル

(2月15日 ルスキエゴルキ・センター)
 大ベテランの歩んできた道のりは決して順風満帆ではなかった。表彰式で代名詞のダブルピースを連発する姿からは想像もできないが、競技面での挫折だけでなく、数々の苦難を乗り越えた苦労人の側面も葛西にはある。

 前回メダルを獲得した94年リレハンメル五輪の頃、妹の久美子さん(36)が血液の難病を患っていることが分かった。さらに長野五輪前年の97年には母・幸子さんが火事に遭って48歳の若さで他界した。95年には葛西自身がジャンプの転倒による左鎖骨骨折の重傷を負い、その後もケガには悩まされ続けた。

 競技環境も安定しなかった。最初の所属先だった地崎工業は長野五輪後に廃部になり、その次のマイカルも02年のソルトレークシティー五輪シーズンに廃部となった。そうした苦しい時にいつも支えてくれたのは家族。メダルを獲った葛西の口からは自然と感謝の言葉が出た。「僕を産んでくれた両親、いつも僕を支えてくれた一番大事な母、母が亡くなってから僕を支えて応援してくれた姉、妹にもメダルを獲って恩返しがしたいと思っていた」

 久美子さんは肺炎をこじらせて昨夏から入院生活が続いている。葛西は地元に帰るたびに見舞いに訪れ、先月W杯で優勝して帰国した後もすぐに駆けつけた。久美子さんにとって五輪やW杯に限らず、国内大会でも葛西のジャンプをテレビやインターネットでチェックするのが何よりの楽しみ。今大会前には「紀明なら行ける。絶対にメダル獲れるから、何も心配しないで飛んで」と激励のメッセージも届いた。葛西は「重い病気の妹もこの2位というメダルを獲れたことで元気になってくれると思う」と願いを込めた。

 これまで大事な試合には母からもらった手紙を持参してお守りにしてきた。しかし、今回は持ってこなかった。「支えにもなるけど自分の気持ちが弱い時にああいう手紙を見ていたんだなと気づいた。今シーズンはもう強い気持ちを持てていたので、そういう助けは必要なかった。自分を強くもってソチに来た」。家族に支えられてきた男は、今度は自分が支える覚悟を決めた。その思いが銀メダルとなって結実した。

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