勝者と敗者の「その後」が違う意味で対照的な件

[ 2016年11月24日 11:35 ]

小関桃(右)と宮尾綾香
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 【中出健太郎の血まみれ生活】昨年の女子プロボクシング年間最高試合に選ばれたのは最も軽いアトム級(リミット46・2キロ)の世界王座統一戦だった。2015年10月22日、後楽園ホール。WBC王者・小関桃(青木)が初回にダウンを奪われながらもWBA王者・宮尾綾香(当時大橋、WBAの同級の呼称はライトミニマム級)に3―0判定勝ち。男女を通じての国内最多記録を自ら更新するWBC王座16度目の防衛に成功し、WBA王座も獲得して(その後返上)日本女子初の統一世界王者となった。

 それから1年あまり。2人はともに苦悩の日々を過ごしてきた。まずは小関。挑戦者がなかなか見つからず、対戦を計画していたメキシコ人選手の妊娠が判明するなど、17度目の防衛戦まで1年1カ月を要した。ようやく相手に名乗りを上げたのが、タイトル初挑戦の日向野知恵(スパイダー根本)。11月11日に後楽園ホールで行われた試合は、がむしゃらに前進してくる日向野に小関が一方的にパンチを浴びせ、4回レフェリーストップで終わった。

 「この1年は凄く長くて、苦しかった」。小関の表情に浮かんだのは安ど感と物足りなさ。試合が決まらないため階級アップも視野に入れるなど「いろいろな夢を描いていた時期」に、実力差の大きい日向野が挑戦者と知らされて複雑な思いを抱いたという。格下相手にTKOでプライドを示し「縛られていたものから解放された」と話したが、選手層が薄い中で今後も対戦相手探しは難航が予想される。それでも体格的に「自分が本当に世界一と言えるのはアトム級」であり、8年間守り抜いた伝統のWBCのベルトを「わざわざ手放すのは寂しい」。変化か継続か。34歳は「2つの思いで凄く揺れています」と繰り返した。

 一方の宮尾は小関に敗れた後、「何をやっていいのか分からなかった」と明かした。「失恋と一緒で、新しい恋愛をしたいのに前の恋を引きずっている感じ」。世界王者だからこそ存在価値のあった自身が「ベストの自分ではなくなった」とも感じた。ベストの自分を取り戻すため決断したのが、大橋ジムからワタナベジムへの移籍。もともと週に3、4回は対人練習のため女子選手が多く所属するワタナベジムへ出稽古を行っていたが、トレーナーを帯同できず「自分の練習を見てもらいたい」悩みがあった。

 現在は豊富な対人練習が可能となり「伸びしろを伸ばせている。成長しているのが感じられる」と話す。自身の練習だけでなく、他の選手を見ることで視野も広がった。同じパンチでも角度を変えるなどで威力が増し、33歳の今が「ボクシング人生で一番楽しい」。12月13日には後楽園でWBO女子世界アトム級王者・池山直(フュチュール)へ挑戦することも決まった。10年前に敗れた相手に「あの時の自分とは違うと思わせたい」と意気込む。守るべきものがあり、その価値が尊いからこそ悩み続ける小関とは対照的に、守るものも自身の価値も失い、変化するために一歩踏み出すことを選んだ宮尾。今の2人が再戦したら面白いかも、と考えるのはゲスいだろうか。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。

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