【内田雅也の追球】幸運呼んだ3、4番の献身

[ 2025年7月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1-0巨人 ( 2025年7月2日    甲子園 )

<神・巨(14)>8回、四球を選ぶ佐藤輝(投手・中川)(撮影・中辻 颯太)
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 阪神・森下翔太の決勝生還はアクロバティックで忍者のようだった。

 野球が伝来した明治初期、ベースボールを一部で「打球鬼ごっこ」と翻訳された理由がわかるかのようだ。鬼から逃げて、かいくぐって陣地を奪い取ったわけだ。

 この虎の子の1点をもぎ取ったのは8回裏2死無走者からだった。巨人2番手・中川皓太から森下、さらに佐藤輝明がともにフルカウントから四球を選んだのだ。

 0―0の投手戦。一発警戒のなか、相手バッテリーが慎重にコーナーを狙ってくるのを承知のうえで、森下も佐藤輝も強引にならずに見極めた。一発で、自分で決めてやるという傲慢(ごうまん)さなどは見えず、次打者につなぐ献身の姿勢が2死一、二塁の好機をつくったのだった。

 監督・藤川球児も「フォアボールという形でしたが」と3、4番の威力をみていた。「3、4番がこれまでホームランを打っていましたので、少しずつ、ストライクゾーンからそれていったのでしょう」。森下も佐藤輝も巨人戦で今季、ともに4本塁打を放っていた。

 2死一、二塁から大山悠輔の放った強い遊ゴロが幸運にも不規則に跳ね、二塁から森下が生還。決勝打となった。

 「野球は2死から」という古くからの標語は、あきらめない不屈の姿勢や、何が起きるか分からない奇跡を予感させる。

 『老人と海』を思う。キューバの老漁師が巨大なカジキと格闘する。<それをやりにおれが生まれてきた。そのことだけを考えればよい>。老いても強い信念で、何度もピンチにあいながら、あきらめなかった。

 3日間の死闘の間、<人間は、負けるように造られてはいないんだ。私は殺されることはあっても、負けることはない>と自らを奮いたたせた。敗れざる者である。

 <運はいろんな形をして現れる。とすれば、どうしてそれがわかる?>老人はついにカジキを釣り上げる。

 阪神園芸のグラウンドキーパーには心痛む光景だったかもしれない。不屈は幸運を呼ぶ。それが不規則バウンドとなって阪神の前に現れた。

 この日は著者の文豪アーネスト・ヘミングウェーの忌日だった。名言が残る。「スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ」。野球はやはり人生に似ている。 =敬称略=
 (編集委員)

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