カヌー代表争いライバル飲料に禁止薬物 東京五輪へ焦り…8年間資格停止

[ 2018年1月10日 05:30 ]

禁止薬物混入が発覚した鈴木康大
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 ライバルのドリンクに禁止薬物を混入するという、前代未聞のスキャンダルが発覚した。日本カヌー連盟は9日、昨年9月のスプリント日本選手権(石川県小松市)に出場した鈴木康大(32=福島県協会)が、大会中に小松正治(25=愛媛県協会)の飲み物に禁止薬物の筋肉増強剤メタンジエノンを混入させたと公表。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は鈴木を8年間の資格停止処分とし、ドーピング検査で陽性反応を示し暫定的資格停止となっていた小松の処分を解除した。

 前代未聞の事件の舞台となったのは、昨年9月11日のスプリント日本選手権だ。10年広州(中国)アジア大会で銅メダルを獲得した長距離の第一人者の鈴木は、カヤックシングル200メートルのレース前に、会場に置いてあった小松のボトルを控室に持っていき、用意していた禁止薬物「メタンジエノン」を混入。元の場所に戻した。気づかずに飲んだ小松はそのレースで優勝。レース後のドーピング検査で陽性反応が出た。

 鈴木がライバルを陥れる悪質な犯行を思い立ったのは8月中旬のハンガリー遠征中だった。「メタンジエノン」の存在を知り、海外のサイトで発注。50錠で約1300円だったという。ドーピング検査が確実に行われる日本選手権の宿舎には、実家の千葉経由で郵送。レース前日の10日に1錠を粉末にして、会場に持ち込んだ。

 陽性と判定された小松は10月20日、JADAから暫定的資格停止処分を受けた。日本カヌー連盟が調査を進める中、鈴木は11月20日になって犯行を認め、「怖くなった。弱い人間でした」「皆さんに迷惑をかけた」と語ったという。元々2人は仲が良く、処分が決まった小松から真っ先に相談の電話を受けたことで「小松をこのままにしておけない」と自白に至った。

 さらに過去の妨害行為も証言した。小松に対しては練習で使用するGPSとパドルを盗んで捨てた。10年広州アジア大会でも他の選手のパドルを破損させるなど、ライバルに対し嫌がらせを複数件、行っていた。小松以外の3選手とは1月4日に示談が成立したという。

 鈴木はリオ五輪出場を逃して一度は引退したが、20年東京五輪に向けて現役復帰。だが、日本が力を入れる短距離種目では国内5〜6番手で、五輪出場は見えてこない状況だった。日本連盟の春園長公(おさひろ)事務局長は「(若手の台頭で)焦りを感じたのではないか」と動機を推察した。

 石川県警は禁止薬物混入のほか、競技で使用する道具を盗まれたとする被害届を小松選手から受理。日本連盟は最も重い「除名」処分を科す方針だ。東京五輪出場はおろか、人生を台無しにするドーピング・スキャンダル。あまりに短絡的な愚行だった。

 ▽メタンジエノン 筋肉増強剤「ステロイド」の一つ。体の中にあるタンパク質の合成を促し、筋肉を増やす効果がある。一方で、肝機能障害などを引き起こす副作用も指摘されている。「最古のステロイド」とも言われ、ネット通販で簡単に購入できる。

 ▽カヌー・スプリント 流れのない穏やかな水上で一斉にスタートし、直線コースで順位を競う。片側に水かきのあるパドルでこぐカナディアンと両端に水かきのついたパドルでこぐカヤックがある。種目は1人乗り、2人乗り、4人乗りがあり、距離は200、500、1000メートルの3つ。20年東京五輪では男女計12種目が行われる。日本はリオ五輪では出場を逃している。カヌー競技にはスプリントのほか、急流でタイムと得点を競うスラロームがありリオ五輪では羽根田卓也(ミキハウス)が日本カヌー初の銅メダルを獲得した。

 ◆鈴木 康大(すずき・やすひろ)1985年(昭60)10月6日、千葉県小見川町生まれの32歳。銚子商―立命大―滋賀レイクスターズ―福島県協会。高1から国際大会に出場し、全日本大学選手権は1年で1000メートルフォア優勝。3年でW杯1000メートルペア、200メートルフォアともに6位。大学4年時は日本ランク1位に。08年北京のアジア最終予選スプリント1000メートル3位。12年ロンドンも同種目4位で五輪出場を逃す。08年北京五輪カヌー代表の久野綾香さんと結婚。1メートル80、83キロ。

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