沙保里 涙の個人200連勝&世界V16!劣勢しのぎ4度目五輪へ

[ 2015年9月11日 05:30 ]

レスリングの世界選手権で13連覇を達成し、日の丸を背に感極まる吉田沙保里

レスリング世界選手権第3日

(9月9日 米ラスベガス)
 霊長類最強女子が感涙の五輪切符獲得だ。リオ五輪の出場枠を懸けた世界選手権は9日、米ラスベガスで男女の計4階級が行われた。女子53キロ級の吉田沙保里(32=ALSOK)は決勝で3年連続の顔合わせとなったソフィア・マットソン(25=スウェーデン)に2―1で競り勝った。48キロ級で3連覇した登坂絵莉(22=至学館大)ら後輩の活躍も励みに、五輪を含めた世界大会16連覇と個人戦200連勝を達成。12月の全日本選手権出場を条件に、4大会連続の五輪代表に決定した。

 膝に手を突き、何度も荒く息を吐き出す。おきまりのガッツポーズをする気力も、とりあえずの笑顔を見せる余力もなかった。全てを出し切った女王は、笹山秀雄コーチに肩車されてマットを1周。苦悶(くもん)の表情はコーチの肩の上で徐々に泣き顔に変わり、最後にやっと小さな笑みが浮かんだ。

 勝ち慣れた世界選手権だが、これまでで最も厳しい戦いだった。「みんながタックルに入らせない方法、タックルにきた時のカウンターを研究していた」。準決勝では昨年3位のチョン・ミョンスク(北朝鮮)を5―2で下したが、3年ぶりに世界選手権で失点した。

 決勝でも過去2年で5―0、6―0と完封していたマットソンに追いつめられた。第1ピリオドは0―1とリードされ、第2ピリオドは相手を2度場外に押し出して2―1と逆転。しかし得意のタックルに入れず、差がつかない。「頭は真っ白でぐちゃぐちゃ」と終盤は完全に守勢に回った。

 「負けるかも」と弱気になった時、頭に浮かんだのは目の前で3連覇を達成した後輩の姿だった。決勝進出で初の五輪代表を決めていた48キロ級の登坂に対し、吉田は決勝前にこう声を掛けた。「これで終わりじゃない。ちゃんと優勝しないといけない」。その登坂は残り10秒の劇的な逆転勝利で吉田の言葉に応えた。

 ならば自分がくじけるわけにはいかない。「絵莉の勇気がなければ負けていたかもしれない」。マットソンのタックルを必死にがぶり、何度も耐え、逃げ切った。「絵莉と一緒に笑いたいと思った。勝つことができてよかった」とインタビューでは再び顔をくしゃくしゃにして泣いた。

 マットに登場する際は「歴史上最も偉大な女子レスラー」と紹介され、海外のカメラマンや観客からも熱視線を受けた。「負けたらどうしようという気持ちもある」という重圧を背負い続けて、たどり着いた世界V16と200連勝の金字塔。02年に20歳で世界選手権に初優勝した時は「世界で絶対的な存在になろうと思った」。完全勝利にこだわり失点しただけで落ち込んだ。だが10月に33歳になる吉田の価値観は当時とは違う。「泥くさいけど勝てたから内容はOK。勝つことが目標だったし、200連勝も付いてきてよかった」

 吉田の衰えか、ライバルの成長か、それともその両方か。いずれにしろ追いかける選手たちとの差は縮まっている。「これからもこういう戦いが続く。タックルをもっと磨いて、リオで4連覇できるよう頑張る」。走り続ける最強の道。若さと圧倒的な強さはもうない。ただし、刺激を与えてくれる頼もしい後輩と、しぶとく負けない強さが今の吉田にはある。

 ◆吉田 沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重県生まれ。全日本王者の父・栄勝さんの影響で3歳からレスリングを始め、ジュニア時代からタイトルを総なめ。久居高から中京女大(現至学館大)を経てALSOK。12年に五輪3連覇を含む13大会連続世界一を達成し、最強と呼ばれた男子のカレリン(ロシア)の記録を更新。ギネス記録に認定され、同年11月には国民栄誉賞を授与された。得意技はタックル。1メートル56。

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