理想的ラジオドラマ誕生 小見山佳典氏が演出 「歌をふんだんに入れることに苦心」

[ 2023年10月18日 09:00 ]

ラジオドラマを演出する小見山佳典氏
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 【牧 元一の孤人焦点】ラジオドラマ好き必聴の作品が完成した。NHK─FM「包帯クラブ ルック・アット・ミー!」(前編・10月21日後10・00、後編・10月28日後10・00)だ。

 原作は天童荒太氏の小説で、脚色は三國月々子さん、音楽は滝澤みのりさん。人の心の痛みに寄り添う活動をする高校生男女6人がバンドを結成する物語と、彼ら彼女らの16年後の物語が交差して展開していく。

 演出の小見山佳典氏は「天童さんの小説『包帯クラブ』(2006年)を読んだ時、若者に寄り添う良い作品だと思いました。それから16年後の続編『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』(2022年)は『包帯クラブ』の6人がバンドを組む話で、音の世界で若者の思いを表現していました。1作目への思いの強さもあったので、これをぜひラジオでやりたいと思いました」と語る。

 主要登場人物の1人・ワラを演じるのは高畑こと美、ディノを演じるのは百瀬朔。小見山氏は「高畑さんは高畑淳子さんの娘さんで、私はこれまで舞台を何本も拝見して、いいなと思っていました。ワラは『強いけれど弱い』という女性ですが、高畑さんならば精神的な強さと弱さを同時に表現できると思いました。百瀬くんには10年くらい前からラジオドラマに出てもらっています。ディノはある種の幼さと優しさがある男性ですが、彼ならば表現できると思いました」と起用理由を説明する。

 2007年に公開された映画「包帯クラブ」(堤幸彦監督)では、主演の柳楽優弥がディノ、石原さとみがワラを演じていた。

 今回の作品の聞きどころの一つは劇中に流れる音楽だ。NHKのスタジオでの収録にはアコースティックギターを弾く音楽家も参加し、物語の進行に併せて実際に音を奏でた。バンドの6人と活動をともにすることになるボーカリスト・ミンジョンが歌う「ティアーズ・イン・ヘヴン」(エリック・クラプトン)が切なく美しい。

 ミンジョンを演じているのは、横山友香。小見山氏は「昨年、私が音楽劇『星の王子さま』を演出した時、彼女に主役をやってもらい、とても美しい歌声だと思いました。彼女の夢はミュージカルで活躍することですが、機会があればラジオドラマに出てもらいたいと考えていました」と語る。

 物語にはバンドのオリジナル曲も登場する。天童氏が小説に書いていた歌詞に、このドラマの音楽担当の滝澤さんが曲をつけたもので、物語の各所で使われているが、特に終盤のクライマックスが圧巻だ。

 小見山氏は「歌をふんだんに入れることに苦心しました。音楽番組ではないので、歌が突出してはいけない。構成を含めて歌と芝居がうまく絡むようにしなくちゃいけない。作曲の滝澤さんもミキサーも大変だったと思いますが、楽曲の良さとミキシングの良さも含めて面白いドラマになったと思います」と手応えを明かす。

 原作の天童氏はこの作品の制作に当たって次のようなコメントを寄せている。

 「ラジオドラマという表現が、若い頃から好きでした。キーポイントは、想像力の刺激です。すべては、耳に入ってくる登場人物のセリフやナレーションと、効果音と音楽…それだけで物語を想像するほかありません。それはリスナー自身が、創造する、というのに等しいと思います」

 この作品は、その魅力が理想的な形で発揮されたものと言える。出演者たちがいわゆる「超有名俳優」ではないことが、聴く人の想像力(もしくは創造力)をより強くすることに貢献しているとも感じる。

 小見山氏は「想像力を広げてもらえるのはうれしいです。それは芝居で心情をきちっと表現できる人たちが演じたからこそ成立しているのだと思います」と演者たちを称えた。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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