大人の心を温かくするEテレ「沼ハマ」

[ 2023年7月19日 08:00 ]

Eテレ「沼にハマってきいてみた」に出演する、ヒーローのポーズを研究する高校生(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】子供が自分の好きなものに熱中している姿を見ていると自然に温かい心持ちになる。NHK・Eテレ「沼にハマってきいてみた」(土曜後8・45)は基本的に10代の少年、少女向けの番組だが、大人も十二分に楽しめる。

 制作統括の三好健太郎チーフ・プロデューサーは「大人になるほど『好きなものがあるのは幸せ』ということが分かるので、この番組は大人が見て楽しいと思います」と話す。

 番組で扱う「沼(好きなもの)」は多様。4月以降では「マジック」「ドローン」「モフモフわんちゃん」「恐竜」「原宿通い」「カラオケ」「フリースタイルダンス」「ラップ」「ディズニー」「ローカル鉄道」「短歌」「ポケモン」というラインアップだった。

 三好氏は「まずは10代で流行っているものを意識しています。4月から放送時間が土曜の夜に変わったこともあり、親御さんやきょうだいが一緒に見るかもしれないということも考えています。大事にしているのは多様性です。年間の放送を通じて『いろんな子がいろんなものにはハマっている。いろんな形で幸せになっている。生きているとこんなに面白いことがある』ということを表現したいと思っています」と説明する。

 昨年10月の放送では「送電鉄塔」という異色の回もあった。

 「その子がとても面白いので、地味でもやろうと考えました。同じマニアの人たち集まってお互いの知識を確認し合うという楽しみ方もあるでしょうが、この番組は違うジャンルの人たちが集まって『自分とは違うけれど共感できる。刺激になる』と感じてもらえるとうれしいです」

 何より重要なのは、番組に出演してくれる子供たちの存在。例えば「ローカル鉄道」の回には「三陸鉄道“顔”にハマる高校生」ら、「短歌」の回には「強豪文芸部の部長」ら、「ポケモン」の回には「ポケカにハマる中1&お父さん」らが登場した。子供たちには芸能人のような所属事務所はなく、番組の担当者が全国に目を向け、該当する子供を丹念に探さなければならない。

 「ハマっている子が見つからなければ、その沼を取り上げることをあきらめます。子供を見つけることが番組の最優先事項です。探してくるディレクターにはリスペクトしかありません」

 その点では人材発掘番組の側面もある。

 「『恐竜』に出てくれた男の子はとても良く勉強していて、たぶん将来は学者になるのではないかと思います。勉強を頑張っているだけではなく、本人はトリケラトプスになりたがっていて、弟と一緒に恐竜ごっこをしたりします。ただ遊ぶのではなく、ちゃんと文献を読んで彼なりにトリケラトプスの動きを解釈して表現しています。部活は登山部で、将来、発掘現場に行った時のサバイバルな活動のために体をきたえています。こういう子たちに出会えることがこの番組の良いところだと自信を持って言えます」

 7月23日には「特撮ヒーロー」をテーマにした番組が午後4時から生放送される。ゲストは大河ドラマ「どうする家康」に出演中の俳優・山田裕貴。山田は特撮ドラマ「海賊戦隊ゴーカイジャー」(2011年~12年)に出演した経験がある。

 「年に何回か生放送をやりたいと思っています。今回は特撮ヒーローにあこがれて部活などで特撮ヒーローを演じている子たちが出てくれます。一人はスーツを脱いだ後もヒーローでいたいという子で、誰よりも掃除に力を入れ、下校中はゴミを拾いながら帰宅しています。もう一人は特撮の設定を考えるのが楽しいという子で、例えば水道の蛇口を見たら『水道戦隊アラウンジャー』などと妄想し、部活でのヒーローショーを率先して考えてみんなに演じてもらっています。生放送では実際にその子たちにヒーローショーをやってもらいます。山田裕貴さんが経験者としてどんな反応を示すかというところは見どころの一つです」

 この世界には子供たちが熱中するものがまだまだたくさんあるだろう。

 「全部やり尽くしたと言えるまで続けたいです。いろんなところに幸せになるヒントが転がっているということを表現していきたいです」

 大人の心が温まる時間が続く。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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