「らんまん」松坂慶子 演出・渡邊良雄氏「果たした役割は大きい」

[ 2023年6月30日 08:30 ]

連続テレビ小説「らんまん」で槙野タキを演じた松坂慶子(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】NHK連続テレビ小説「らんまん」でチーフ演出を務める渡邊良雄氏がインタビューに応じ、主人公・万太郎(神木隆之介)の祖母・槙野タキを演じた俳優・松坂慶子の魅力や演出方法などについて語った。

 ──「らんまん」収録開始前、松坂さんにどんな印象を抱いていましたか?
 「松坂さんとご一緒するのは今回で6作目です。最初は大河ドラマ『毛利元就』(1997年)で、私が演出を始めたばかりの頃でした。松坂さんは元就の育ての親・杉の方役で、『女は顔よのう』というセリフが口癖でした。女性は顔が良ければ何事も許されるという意味合いで、こんなセリフを誰が言うのだろう?と思いましたが、松坂さんがキャスティングされて、松坂さんならば許されると感じました。昭和を代表する美人女優で、『愛の水中花』(1979年)を歌っているのを見て、きれいな人だと思っていました」

 ──過去の5作で演出した時はどんな印象でしたか?
 「お会いする前は、大女優然とした方なのかと思っていましたが、お会いすると、とても気さくで、柔らかい方だと感じました。大河ドラマ『篤姫』(2008年)の教育係・幾島のような厳しい人もできますが、連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(2011年)の貸本店店主・美智子のような素朴な人もできて、どんなキャラクターでも松坂さんが演じると面白くなるという印象です」

 ──「らんまん」で万太郎の祖母・タキ役に起用した理由を教えてください。
 「誰に演じていただくのが良いかチーフプロデューサーと話し合いました。タキは厳格な人物で、万太郎が土佐から飛び出して植物学を志すことになる道のりで大きな障害になります。しかし、根っこには優しさと深い愛情があり、最終的に万太郎が家業から離れて東京に行くことを許します。この役柄には松坂さんご自身がお持ちの優しさ、柔らかさ、温かさが必要だと思いました。お電話で主人公の祖母の役をお願いしたいという話をしたところ、翌日、承諾のお返事をいただきました。役柄の詳しい説明をしたのは、その後でした」

 ──どのように演出しましたか?
 「今までの松坂さんよりも凄くきつく見える芝居をしていただきたいとお願いしました。でも、松坂さんの本来の優しさがつい出てしまうことがあって、『なんかまた甘くなっちゃいました』とおっしゃっていました。最もタキさんの厳しさが出たのは、万太郎たちが母のために花を取りに出かけて遭難しかかったシーンです。タキさんは万太郎の行方不明を知って『許さん』と激怒しました。あれは誰かに怒っているわけではなく、神や仏はいないのかという怒り、運命に対する慟哭です。松坂さんには『これまでの人生で最も厳しい怒り方を』とお願いしていましたが、結果的に、これまでにないもの凄い形相をしていただきました。ご本人はその映像を見て『私、こんな顔をしちゃっているんだ!?』と面白がって『これから性格俳優を目指そうかしら…』と笑っていました」

 ──改めて松坂慶子さんという役者をどう感じていますか?
 「私は6作でご一緒して、6作とも役柄が違います。松坂さんが演じてくれれば面白くなると考えてキャスティングするのですが、松坂さんは毎回、冒険してくれます。何十年もこの仕事をされていて、いまだに、新しい役、ご自身が面白いと思う役にどんどん挑戦する姿勢が素晴らしいと思います」

 ──松坂さんが「らんまん」で果たした役割を教えてください。
 「万太郎には自分が好きなことをやるために乗り越えなければいけないものがありました。その象徴が、松坂さんが演じたタキさんです。万太郎はそれを乗り越えて東京で植物学の道を進んでいますが、一方で、手放してしまった大きなものがあります。その象徴も、タキさんです。松坂さんが果たした役割は大きいです」

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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