温故知新!年末年始に旧作特集が目白押し

[ 2022年11月20日 16:10 ]

大映4K映画祭のポスタービジュアル
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】創立110周年を記念した日活の特集上映「Nikkatsu World Selection」が11月3日から10日まで東京・シネスイッチ銀座で開催された。

 過去10年間、世界50カ国以上で紹介された作品8本をデジタル復元版で上映する企画で、トークイベントも充実。すべてに足を運ぶことはできなかったが、2度のぞいて楽しい時間を過ごした。
 まずは開幕日の3日。「映画と添い遂げた」と言われた大女優、田中絹代の1955年の監督作「乳房よ永遠なれ」の上映後に行われた大九明子監督(54)と国立映画アーカイブ主任研究員の冨田美香さんのトークセッションを取材した。

 作品は歌人・中城ふみ子の半生を映画化した田中の3本目のメガホン作。主演の月丘夢路の迫真演技もあって監督としての代表作ともいわれる1本だ。「勝手にふるえてろ」(2017年)などで知られる大九監督は「偉大な素晴らしい傑作を前にお話をさせていただくのは光栄なことです」と口火を切り、「70年近く前にこんな偉大な作品が存在していて、女性の監督として誇らしい」と言葉を弾ませた。

 「顔の表情だけでなく手や足などで心情を表現するところなど素晴らしい演出の数々は学ぶところがたくさんあります。月丘さんが湯の中に顔をつけて、そこから顔を上げるお風呂場のシーン。あの美しくも壮絶なお芝居は楽しかった」としみじみ語った。

 その一方で、「俺がコンテを切ったんだ」と自慢げにつぶやく助監督たちがいて、田中監督の評価に水を差すことになったと冨田さんが紹介すると、「みっともない発言。嫌な気持ちというか、残念だなと思う」と大九監督が怒りの感情をにじませる一幕もあった。

 3日後の11月6日には田中登監督の「(秘)色情めす市場」が上映され、「ギフテッド」で芥川賞候補になった作家の鈴木涼美さん(39)と映画評論家の森直人氏が熱いトークを展開した。

 作品は大阪の釜ケ崎を舞台に、ともに娼婦(しょうふ)として生きる母娘を通して生と性を描いた田中監督の渾身作。AV女優、新聞記者など異色の経歴を持つ鈴木さんは「セックスシーンのある映画に出る女優さんが娼婦を演じると二重の“娼婦性”を帯びて、ものすごい哀愁と色気が出るんですね」と、出演の芹明香や花柳幻舟、宮下順子らの演技を絶賛。そして「深い絶望からしかスタートできない女の生きざま。芹さんの出演作をいろいろ見たくなりました」と話した。

 続いて東映。11月11日から12月22日までの期間、東京・銀座の丸の内TOEIで「東映クラシックス」と題した旧作特集を実施中だ。デジタル処理を施して映像が鮮やかになった名作6本が芸術の秋を彩る。

 1957年のベルリン映画祭で監督賞(銀熊賞)に輝いた今井正監督の「純愛物語」、63年のベルリン映画祭で最高賞「金熊賞」を受賞した今井監督の「武士道残酷物語」、83年のカンヌ映画祭で最高賞パルムドールを獲得した今村昌平監督の「楢山節考」という海外の映画祭で評価を得た3本がまず1週間ずつ上映。

 加えて、坂口安吾安吾の小説を今村監督が料理した「カンゾー先生」(98年)、檀一雄の遺作を深作欣二監督が映画化した「火宅の人」(86年)、そして夏目漱石の小説に森田芳光監督が挑んだ「それから」(85年)の文芸作3本が続く。

 オールドファンには“再見”が楽しみな作品群。「初めて見る」という若い世代をも刺激する好企画だ。

 日活、東映に続いて、年明けの1月20日からは大映創立80周年記念と銘打った「大映4K映画祭」が角川シネマ有楽町などで開催される。ちなみに大映が誕生したのは1942年1月27日。翌43年に作家の菊池寛が初代社長に就任して歴史の幕を開けた。

 「4K映画祭」の連動企画として1月6日からは「Road to the Masterpieces」と題した特集が先行し、計48作品が集う。

 初4K披露となる増村保造監督、若尾文子主演の「赤い天使」はじめ、三隅研次監督と市川雷蔵が組んだ「大菩薩峠」(60年)、「大菩薩峠 竜神の巻」(60年)、三隅監督からバトンを受けた森一生監督がメガホンをとった「大菩薩峠 完結編」(61年)、さらに安田公義、三隅、森監督がリレーした特撮時代劇「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」(いずれも66年)の3部作などがラインアップ。またベネチア映画祭銀獅子賞の溝口健二監督「雨月物語」(1953年)や金獅子賞の黒澤明監督「羅生門」(50年)など海外で評価を得た作品も鮮やかな映像で銀幕を飾る。

 年末年始の慌ただしさの中、大作観賞もいいけれど、料理だっておせちばかりでは飽きが来る。日本映画史に刻まれる旧作の数々で人生を味わうのも、また一興だ。

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