ドラマ「探偵・由利麟太郎」 2020年に引き継がれた横溝正史さんの世界観

[ 2020年6月22日 11:30 ]

ドラマ「探偵・由利麟太郎」で主人公を演じる吉川晃司(C)カンテレ
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 【牧 元一の孤人焦点】「横溝正史」という名前に特別な思い入れがある。中学生の頃、文庫本で数多くの小説を読んだからだ。「犬神家の一族」を皮切りに「八つ墓村」「獄門島」「本陣殺人事件」「悪魔の手毬唄」などなど。探偵の金田一耕助を主人公とする作品はほぼ制覇したのではないか。

 あれから40年以上。横溝さんが「犬神家の一族」を書いてからはおよそ70年も経過している。それが今、横溝さんの小説を原作とする連続ドラマの放送が始まった。しかも、主人公は金田一耕助ではない。

 フジテレビ系「探偵・由利麟太郎」(火曜後9・00、カンテレ制作)。俳優で歌手の吉川晃司が演じる主人公の由利、俳優の志尊淳が演じる助手の三津木俊助はいずれも横溝さんが金田一耕助よりも前に生み出していたキャラだ。

 なぜ今、横溝作品、しかも由利麟太郎なのか。ドラマを演出・プロデュースするカンテレの木村弥寿彦氏は「横溝さんの世界観が好きで調べていたら、大阪を舞台にした『蝶々殺人事件』を見つけた」と話す。横溝さんは由利が登場する小説を太平洋戦争前から書いていたが、「蝶々殺人事件」は戦後の1946年から47年にかけて雑誌で連載していた作品で、現在も文庫などで読むことができる。

 木村氏は「読んでみると面白い。さらに由利麟太郎という人物が金田一耕助とは真逆のタイプ。金田一耕助シリーズ以前に存在したシリーズで数多くの原作があるのを知り、これを現代版に解釈すればドラマ化できるのではと考えた。また、横溝作品は人気があり、その世界観は今でも通じるのではと思った」と話す。

 吉川が演じる由利はキャラが立っている。まず見た目が渋い。金田一耕助がボサボサの長髪だったのに対し、きれいに整った白髪。服装もスタイリッシュだ。金田一のように冗舌ではなく、弓道をたしなみ、格闘にも強い。ただし、先端恐怖症で、とがったものを見ると、よろめいてしまう。

 1976年の映画「犬神家の一族」大ヒットの要因のひとつは、石坂浩二が演じた金田一のキャラの面白さ。そして、もうひとつは横溝さんの独特なおどろおどろしい世界観だ。その二つが、「探偵・由利麟太郎」に受け継がれているのだとすれば、ヒットにつながる可能性がある。

 未読だった小説「蝶々殺人事件」を読んでみようと、行きつけの書店に足を運んだ。16日にドラマの初回が放送される前は確かに書棚にあったのだが、すでに売り切れていた。変動が始まりつつあるのかもしれない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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