中条あやみ 古本で磨かれる本能 引かれてる傍線から他者との思考を比較、自分の生き方を確認

[ 2019年1月22日 10:00 ]

お気に入りの古書を披露する中条あやみ(撮影・会津 智海)
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 【夢中論】かけがえのない出会いが人生を鮮やかに彩る。そんな運命の恋を描いた映画「雪の華」(来月1日公開)に主演する女優、中条あやみ(21)。テレビやCMにも引っ張りだこの中、東京・神保町の古本街で“運命の一冊”との出合いを探すのが好きだという。古本に引かれた一本の傍線から生まれる、人生を彩るファンタジーとは――。

 戦前の面影を残すレトロで瀟洒(しょうしゃ)な建物も並ぶ神保町。所狭しと積み上げられた古本の山が路面にはみ出す店もある中、ずらりと並んだ本の隙間にその細い指を差し込んで抜き取ると、いつも裏表紙から目を通す。

 「ここに書かれたあらすじをまず最初に見ます。例えばこの本の“終戦の日の朝、19歳のぼくは…”と続く紹介文。私は“ぼく”ではないし“終戦”も知りません。でも私の知らない、そこに触れたいんです」

 西川美和著「その日東京駅五時二十五分発」。約3年前の女子高生時代。モデルの仕事で地元の大阪から上京時、出版社があるこの古本街で見つけた。

 「18歳の頃。自分はどんな大人になっていくんだろう、10代でやり残したことはあるのかなって思い悩んでいて。私は姉が12歳上で姉妹ケンカもなく、人と比べられずに育ったので、自分って何だろうってずっとあった。そんな時この本に出合ったんです」

 自分が生きていない時代に、同世代の若者はどんな思いで生きたのか。それがフィクションだとしても「いろんな人の考え方や感情に触れることで、自分を見つめられるようになりました。それは演技のお仕事にも通じる部分で。自分にはない感情を感じ取るためにも、経験したことのないことを演じる上でも、本はその答えを導いてくれる存在です」

 真っさらな新品の方が奇麗で読みやすそうだが「古本屋さんは宝探しのようで楽しい」という。ほこりっぽいにおいの中、取り出した一冊から漂う古本特有の懐かしくも甘い匂い。ゆっくりと吸い込むと、その色あせた表紙までもが幼い頃に母親が読んでくれた絵本のように見えてくるから不思議だ。

 伊丹十三著「女たちよ!」はそんな一冊。「表紙を見ての“ジャケ買い”でした。あっ面白そう!って。実際、女性として大事だなって思うことがたくさん書かれていて。私も気をつけなきゃってドキッとする言葉の連続でした」

 そして古本には思わぬ発見と喜びがある。熱心に引かれた傍線があると「どんな人がどんな気持ちで引いたんだろう」と思いを巡らせる。この膨らむ想像を「前の持ち主」への敬意によって整理する謙虚さが、中条にはある。他者の思考と比較することで、自分の考えや生き方が間違っていないかを確認する。これは彼女の“本能”と言ってもいい。

 「自分でも面白いなあと思ったら線を引きます」と言って、かばんから取り出したのはアントワーヌ・ド・サンテグジュペリ著「星の王子さま」。ページをめくると至る所に傍線が引いてあり、その中から「自分を裁くのは他人を裁くより難しい。もしも自分を正しく裁ければ、おまえは本当の賢者ということとなる」という一文を読み上げた。

 なぜここに線を?と尋ねると「私、臆病なんです。好奇心はあるけど新しいことに挑戦する時に怖いって思うし、人前が怖いし、人見知りだし…。そもそも自分はどんなたたずまいで、お仕事の現場に向かうべきなのか。そんな時のためにあるような気がします」。

 古本に引かれた一本の傍線から広がる人生の指針。可れんな容姿やおっとりした語り口は時にその人の知性を隠すことがあるが、中条の真っすぐな言葉には我々が傍線を引くべき美点がある。

 銭湯も大好きで「地元のおばちゃんたちに会うのが一番の楽しみ。幼い頃から通っていたのでお菓子とかくれて、お帰り!ポーちゃん(本名ポーリン)って迎えてくれるんです」。

 そこのサウナで繰り広げられる“井戸端会議”が凄い。「あの演技はもうちょっとこうした方がとか、世間の中条あやみに対する見方はこうだからそこを踏まえて発言しないととか、たくさんお説教されるんです。もちろん全員すっぽんぽんで。最近では“そろそろ朝ドラ出ないと”と言われました(笑い)」

 自分にとって「大切な本音の言葉。私の幸せな居場所です」。古本街と銭湯で育まれてきた、飾らない“可れんな品格”。これ自体がファンタジーである。

 《「雪の華」に感じる運命 来月1日から主演映画公開》あまり雪の降らない大阪で、しんしんと降り積もる大雪の日に中条は生まれた。そのことを知ったのは20歳の誕生日。母親からの手紙に「あなたが生まれた日は大雪でした」と書かれてあった。

 「自分がどんな日に生まれたのかなんて話をしたことがなかったので、私は雪の日に生まれたんだ…って知ると、その日の母の姿も浮かんできて。こうして思い返すだけでも(込み上げて)きますね…」と言うと、真っ白な頬を赤くした。

 そんな時に出演依頼があった「雪の華」に運命を感じている。「余命1年の女の子が出会った最初で最後の恋物語というだけでなく、母娘の結びつきも描かれていて。現場でもそこで胸がグッとなって泣きすぎてしまい、撮影を何度かやめちゃったことも。そんなことは初めてで、さまざまな“無償の愛”の形を感じ取っていただけたらうれしいです」

 《「三代目」登坂と恋人役》三代目J SOUL BROTHERSの登坂広臣(31)と恋人役を演じた中条。好きな男性のタイプは「運動が好きで土くさい“野武士”っぽい人」。具体的に挙げてもらうと「甲子園の高校球児。頑張っている“汗感”とか、丸刈りで白いユニホームが泥だらけになっている感じが好きです。バットを構えた姿って野武士っぽくないですか」。

 ◆中条 あやみ(なかじょう・あやみ)1997年(平9)2月4日生まれ、大阪市出身の21歳。父が英国人、母が日本人のハーフ。2011年雑誌「Seventeen」の専属モデルオーディションでグランプリ。「ハーゲンダッツ」などのCMや日本テレビ「アナザースカイ」の進行役で人気者に。16年度の第71回毎日映画コンクールでスポニチグランプリ新人賞受賞。身長1メートル69、血液型O。

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