島国つながり

[ 2018年6月26日 07:30 ]

 【我満晴朗のこう見えても新人類】ワールドカップ出場チームの中で、アイスランドが妙に気になる。2年前に見た米映画「完全なるチェックメイト」があまりに印象的だったので。

 チェスでアメリカ人初の世界王者に輝いたボビー・フィッシャーの波瀾(はらん)万丈な生涯を描いた作品。クライマックスは1972年にアイスランドの首都レイキャビクで開催された世界選手権だ。当時の第一人者、ボリス・スパスキー(ソ連)と21局に及ぶ熱戦を展開。結果は7勝3敗11分けでフィッシャーの快勝だ。第3局では「神の手」として語り継がれる妙手を披露し、局後には敗れたスパスキーが立ち上がって拍手を送る感動的なシーンが描かれている。

 将棋でこんな場面、絶対ないから驚いた。チェスに詳しい羽生善治さんに「あれは実際にあったエピソードですか?」と尋ねたら「さすがに演出だと思いますよ」とのこと。なあんだ。

 ちなみに奇人変人で知られたフィッシャーはその後、日本などで世捨て人のような生活を送った。パスポートの有効期限切れ後に日本から出国しようとした際には当局から拘束されたこともある。米国帰国を拒否した天才チェスプレーヤーは一時中ぶらりんの状態になったが、すったもんだの末に受け入れを申し入れたのがアイスランド。同国の市民権を獲得、2008年に亡くなるまで、彼の地でひっそりと暮らしていたのだそうだ。

 村上春樹氏の紀行文集「ラオスにいったい何があるというんですか?」(文春文庫)にもアイスランドの項がある。エッセーの表題は「緑の苔(こけ)と温泉のあるところ」。訪れたのは9月上旬にもかかわらず、すでに寒い。海に囲まれているのでシーフードがうまい。レンタカーでレイキャビクの郊外に出ると、道路状況は「お世辞にも良くない」。ほぼ全土に苔が生えている。人口が少ない(全国民で35万人ほど)…。

 当然ながら冬は長く厳しいので、以前から飲酒の習慣が社会問題になっていたとか。禁酒法を施行していた時期もあり、現在でもアルコール類の値段は極端に高い。食事も全体的にいい値段で、ランチすら2000円ほど。

 日本同様火山国だから、至る所に温泉が出る。有名なのが「ブルー・ラグーン」。湖のような広さを誇る温泉に、海水浴よろしく水着姿で入浴する。村上氏が気持ちよさそうに漬かっているカラー写真もある。温泉好きにはたまらない。

 一度も行ったことがないのに妄想は膨らむ一方だ。お金と時間に余裕があればぜひとも訪れてみたいが、特に前者の余裕がない身。日本代表と同じくらいのエールを送るだけでよしとしよう。(専門委員)

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2018年6月26日のニュース