団十郎さん 最期の言葉「いつも、みんなありがとう」

[ 2013年2月28日 06:00 ]

団十郎さんの遺影を背にお礼のあいさつをする市川海老蔵
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市川団十郎さん本葬

(2月27日 東京都・青山葬儀所)
 【海老蔵あいさつ全文】

 とても寂しいです。しかし、父の子として生まれて本当に幸せでした。父は若くして父(十一代目市川団十郎)を失い、また、母を失い、白血病という大病を2度も患い、そして息子が私という何とも苦労の絶えない人生でございました。

 しかし、そんなとてもつらい苦しいことがあるのにもかかわらず、われわれ家族の前ではいつも明るく優しく大きく、どーんとした父でした。初めて父とお酒を飲んだ時に、父は十一代目団十郎の父とそのような時を過ごしたことがなかったために「孝俊(海老蔵の本名)、とってもうれしいよ」「幸せだ」と言ってくれたことがとても思い出に残っています。

 生前、最期の言葉は「いつも、みんなありがとう」でした。そんな時も、そんな優しい言葉をかけてくれるのだなと、とてもびっくりした思い出があります。

 そして、人工呼吸器をつける時に、意識がなくなるので最後に話がしたいということで、私は浅草公会堂(での公演)に出演させていただいておりましたので、テレビ電話での最後の会話になりました。その時、母から聞いた話ですと、呼吸もつらくとてもしゃべるのも困難でした。しかし、私とテレビ電話がつながった時、テレビの画面から見えた父の顔はとても優しく、いつもと同じような笑顔でした。目をつぶるとその時の父の笑顔がまぶたに焼き付いています。これは本当に私の一生の宝物です。

 そして、先日、父が残した句が出てまいりました。その句は「色は空 空は色との 時なき世へ」。初めてそれを見た時に、自分の最期を悟っていたのだなと思いました。「ああ、気づかなかった」と大変申し訳なく、情けない思いがしました。

 しかし、父は空を眺めることや星を眺めること、宇宙がとても大好きでした。もし、空を眺めた時に少しでも父のことを思い出していただければ、われわれ家族にとりまして、このような幸せはございません。

 私にとりまして父であり、師匠であって、掛け替えのない存在を亡くしてしまいましたが、父からいただいたこの体、そして父が35年間かけて伝えてくれた歌舞伎の精神。一生かけてこの道に精進してまいりたいと思います。

 最後になりますが、父は皆さまに感謝する心というものをとても大切にする人でした。そんな父になり代わりまして、一言言わせてください。皆さま、本日は本当にありがとうございました。

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2013年2月28日のニュース