中国が“世界の映画の工場”に?

[ 2008年8月3日 06:00 ]

 中国の国家プロジェクト「北京五輪」がいよいよ、8日に開幕する。中国は経済界において、安い人件費を生かした大量生産で「世界の工場」と呼ばれている。経済の急成長にともない、同国の映画製作・上映にも変化が見えはじめている。同国映画事情に詳しい配給会社「ワコー」の鈴木一取締役(58)は「五輪後に中国は“世界の映画の工場”になる可能性がある」と話す。

 北京五輪メーンスタジアムの建設過程を追ったドキュメンタリー「鳥の巣 北京のヘルツォーク&ド・ムーロン」が公開中だ。鉄骨を縦横無尽に組み合わせたスタジアムは通称「鳥の巣」。巨大なスタジアムが出来上がっていく様子は、急成長する中国経済とダブる。
 経済の発展にともない、中国の映画産業も変化しつつある。先月中旬、北京を訪れた鈴木氏は、繁華街・王府井で驚くべき光景を目にした。「シネコンの6スクリーン全部で“赤壁”を上映していました。他の国ではありえない」。同作の邦題は「レッドクリフ」。三国志を基にした中香日韓台合作で製作費は100億円。「中国ではアクション大作に観客が集中するので“赤壁”一色にしたのでは」と話す。
 中国は01年の世界貿易機関(WTO)加盟後、外国映画を計画的に輸入。現在は「電影集団公司」の中の「輸入輸出公司」が年間約40本の外国作品を輸入している。そんな中、米系映画会社は、2兆円産業とも言われる海賊版対策に本腰を入れ始めた。中国に限って公開から約1カ月という異例の早さで、正規のDVDをリリース。値段も1枚25元(約400円)ほど。ただ「五輪前だからか、最近は海賊版の露天商をほとんど見かけなくなった」という。

 ≪≫「レッドクリフ」など中国がかかわる作品もビッグバジェットになってきた。バブルの恩恵で中国人実業家に投資意欲があることなどが理由。鈴木氏は「世界の約5分の1が中国人。マーケットが強力」とも指摘した。
 北京五輪後に中国映画が、さらに勢力を拡大する兆しもある。「HERO」のチャン・イーモウ(57)が監督で「西遊記」を製作する計画が浮上。プロデューサーにはスティーブン・スピルバーグ(61)を迎えるという。鈴木氏は「北京五輪の開、閉会式の顧問だったスピルバーグと演出のイーモウが意気投合したのでしょう。かなり信ぴょう性はあります」と話す。このほか「水滸伝」「封神演義」などの古典を超大作として製作する予定もあるという。
 「都市、砂漠、山岳とロケ地が抱負なのも魅力。多民族国家で、欧米人の役を違和感なくできる民族もいる。とにかく中国にはすべてがある」と鈴木氏。リチャード・ギア主演の「オータム・イン・ニューヨーク」(00年)の撮影を担当したクー・チャンウェイなど、ハリウッドの一線で活躍する映画人も増えている。「まだ人件費も安い。五輪後に中国が“世界の映画の工場”になる可能性はある」と予想した。

 ≪≫五輪では公式記録映画の製作が義務づけられている。64年の「東京五輪」は故市川崑監督が製作。「記録か芸術か」という議論を巻き起こすほど完成度が高かった。98年の長野五輪は、米キャピー・プロダクションに製作を依頼。当時調整役を務めた長野県松本地方事務所・環境課長の長谷川浩さん(51)は「ばく大な放映権料を払っているテレビ局との間でカメラ位置を調整するのが大変でした」と振り返った。「1998長野オリンピック名誉と栄光の物語」と題された映画は現在、松下電器産業が著作権を保有。同社によると「DVD化や上映の予定はない」という。

 ◆主な五輪記録映画…36年のベルリン五輪の「オリンピア」。ナチスのプロパガンダとの批判を受けた。68年のグルノーブル五輪は「白い恋人たち」。72年の札幌五輪は篠田正浩監督が「札幌オリンピック」を製作。

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