「なごり雪」「秋桜」…ブーム続くカバー曲

[ 2008年5月10日 09:02 ]

 歌手徳永英明のCD「VOCALIST」シリーズの成功以来、他の歌手のヒットソングを歌うカバーアルバムが多く発売されている。ブームを支えるのは、主に30―40代の男女。すれ違いの恋を描いた名曲から、昔の恋愛や熱中した小説を思い出してノスタルジーをかき立てられるのがヒットの要因では、と分析する識者もいる。

 徳永が「VOCALIST」を発表したのは、05年秋。ハスキーボイスで女性歌手の歌ばかりを歌うという意外さが受け、第3弾まで発売され、合計200万枚以上の大ヒット。山崎まさよし、甲斐よしひろらベテランを中心に、カバーアルバムを発表する歌手が相次いだ。
 中西保志(46)もその一人。近年はヒットに恵まれなかったが、昨年出した「スタンダーズ」など2枚のカバーアルバムがロングセラー中で、人気が復活した。
 「最近のJポップは子供向けで大人はなかなか聴く気がしない。テンポが速すぎるしね。サッカーよりも野球をやって育った僕らの世代に響く音楽をやりたいと思った」
 ターゲットを大人に絞り、ジャズ風のアレンジで仕上げた。「ライバルはシネコン。CD1枚は映画二人分に近い値段なので、休日に夫婦が、映画を見ようか、それとも中西のCDを買ってみようか、と悩んでくれるとうれしいですね」
 選曲はどのように行われるのだろう。ある女性歌手のカバーアルバムを計画する音楽プロデューサーは「連日カラオケボックスにこもらせて、いろんな歌を試しています。いい歌でも声質が合わないと絶対にヒットしない」と話す。
 人気は特定の曲に集中している。「言葉にできない」や「なごり雪」、「秋桜」など昭和の名曲に加え、「ハナミズキ」、「夜空ノムコウ」など近年のJポップも引っ張りだこだ。
 「男女のずれた恋愛を描いた歌が多い」と指摘するのは「Jポップの作詞術」の著書がある石原千秋早稲田大教授(日本近代文学)。「最終的に結ばれなかったり、多くの障害があったり。青春時代へとフラッシュバックさせてくれ、ほろ苦い思いをかみしめるのでしょう」
 カバーアルバムの主力購買層といわれる40歳前後には、作家村上春樹氏の熱心な読者が多いこともブームの遠因にあるのでは、と石原教授は分析。「『ノルウェイの森』など、間違って出会ってしまったというような“誤った恋”を描いた春樹作品は多い。今はサラリーマンや主婦として安定した生活を送る人だからこそ、歌や小説で不安定なシチュエーションを楽しみたいのでは」。

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2008年5月10日のニュース