【内田雅也の追球】併殺で取る本領と伝統 伊藤将は甲子園を本拠地とする野球を継げる投手かもしれない

[ 2022年2月21日 08:00 ]

練習試合   阪神3-1中日 ※特別ルール ( 2022年2月20日    沖縄・宜野座 )

<阪神春季キャンプ>6回無死一、二塁、石橋(左)を三塁併殺打に打ち取った阪神・伊藤将(撮影・椎名 航)
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 5回終了のグラウンド整備を終えた後というのは、先発投手として、きれいなマウンドを用意した計らいだったのだろう。阪神・伊藤将司は6回表に登板した。

 3回を投げ、毎回の5安打を浴び、1四球も与えた。不調だったのだろう。沈み、動く球をファウルで逃げられたり、見極められたりしていた。

 それでも無失点。このように、走者を背追いながら、しのぐ投球こそ、伊藤将の本領である。

 新人だった昨年の走者別投球成績を出し、被打率を見れば、

 ▽走者なし ・248
 ▽走者あり ・203
 ▽走者得点圏・193

 と、ピンチになるほど抑えている。この粘り強さで阪神新人左腕としては江夏豊以来の2けた勝利(10勝7敗)をあげ、防御率2・44と安定した成績を残した。優勝争いの10・11月に3勝無敗1ホールドで月間MVPと信頼感が増していた。

 この日も光ったのはピンチでも慌てない、冷静な投球である。6回表、連打で背負った無死一、二塁。石橋康太に2ボール―1ストライクとなり走者スタート。ヒットエンドランだったが、スライダーを引っかけさせ三ゴロで併殺に仕留めた。

 7回表は安打2本で1死一、三塁。二塁手・遊撃手は当たりに応じて本塁送球と二塁併殺両てんびんの中間シフト。新人の星野真生を二ゴロ併殺に切って脱出した。

 8回表は1死から石川昂弥に安打されたが、けん制で刺して事なきを得た。石川は6回表にも先頭で安打出塁した際、打者への投球でも帰塁するなど、けん制に戸惑っていた。これもまた伊藤将の得意技である。
 つい先日、阪神OBで監督も務めた藤田平(野球評論家)から「阪神の野球、伝統って何や?」と問いかけられた。

 たとえに出したのが渡辺省三だった。1953(昭和28)年から65年まで実働13年で通算134勝をあげた。最優秀防御率も獲った。抜群の制球力と動く球で打たせて取り、わずか70球で9回を零封したこともある。藤田入団とは入れ替わりの伝説だ。「11安打を浴びて完投勝利したらしい。走者を出してもゴロを打たせてゲッツーで取る。あれが阪神伝統の守りの野球よ」。甲子園を本拠地とする野球である。

 伊藤将は伝統を継げる投手かもしれない。2併殺は見事だが、2失策はいただけない。ただ、伝統を思う投球術ではあった。 =敬称略=
(編集委員)

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