【内田雅也の追球】阪神打線に火をつけた「BS」の精神 近本着火の3ラン 直接対決で見せた攻撃姿勢

[ 2021年10月20日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神11ー0ヤクルト ( 2021年10月19日    甲子園 )

<神・ヤ>1回無死一、二塁、先制3ランの近本(5)を迎える井上ヘッドコーチ(左)と矢野監督(撮影・大森 寛明)
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 符丁というか、阪神チーム内で通用する隠語に「BS」(ビーエス)がある。「ボールのストライク」との意味だ。昨年春、ある球団幹部に聞いた話なのだが、今も使われているだろう。

 一昨年秋、打撃コーチに就任した井上一樹(現ヘッドコーチ)は「外から見ていた阪神の印象」として「当てにいくような打撃が目立つ。もっと強いスイングをすべきではないか」とみていた。

 選手たちに伝えた。「たとえば、ボール球を打って凡退しても“なんでボールに手を出したんだろう?”でなく“なぜ、ヒットにできなかったんだろう?”と考えるようにしてほしい」

 いわゆる悪球打ちでもむやみにとがめない。ボール球であっても、打者によっては(あるいは、状況によっては)ストライクという考え方だ。井上の話を聞いた選手たちが、打ったボール球のことを「BS」と名づけたのだった。

 この夜、そんな積極的な「BS」の一撃が効いた。近本光司先制3ランである。

 1回裏、無死一、二塁、0ボール―1ストライク。打ったのは真ん中高めボールぎみ――いやボール球か――の146キロ直球だった。果敢に打ちに出て、右翼スタンドまで運んだ。

 近本は試合前の円陣で「今日も失敗を恐れず、攻めて攻めて攻めていくぞ!」と気勢を上げていた。球団公式インスタグラムにあった。失敗を恐れないは、ボール球を打っても構わないに通じている。まさに「BS」の精神である。

 また、近本一発の直前、無死一塁で中野拓夢は1ボールからの2球目、高めボール球を三遊間安打して好機を広げていた。ヒットエンドランなのでボール球でも打ちに出るのは当然。負けられない一戦で監督・矢野燿大がより攻撃的な姿勢を作戦で示していたわけだ。

 先発・奥川恭伸KOにつながったのは4回裏2死二塁での投手・青柳晃洋の四球だ。これも空振り、ファウルと果敢な姿勢で奪い取った四球だったと言える。

 活気づいた打線は久々に爆発し、16長短打を放ち大勝した。

 打線爆発で乗っていきたい。ただ、反動で打てなくなる時があるのも打線である。チーム内には「BS」に加え「BB」(ボールのボール)という、注意すべき悪球打ちの隠語もある。「BS」も実は「好球必打」の意味だと理解したい。

 そして、攻撃姿勢は今のまま持ち続けたい。この夜、打線に火をつけたのは「BS」にこめられた積極果敢な精神だったとみている。 =敬称略= (編集委員)

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2021年10月20日のニュース