メジャーの不文律は本当に必要か 波紋呼んだタティスの7点リード3ボールからの満塁弾

[ 2020年8月23日 02:30 ]

17日のレンジャースーパドレス戦の8回1死満塁、パドレスのタティスJrは3ボールからの4球目を右中間に満塁本塁打を放った(AP)
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 パドレスのフェルナンド・タティス内野手(21)が17日(日本時間18日)のレンジャーズ戦で放った満塁弾が波紋を呼んでいる。パ軍が10―3のリードで迎えた8回に3ボールからスイングしたためで、直後に登板した投手が次打者の背中付近に報復投球した。「Unwritten Rules」(書かれざるルール)は必要なのか。メジャー取材歴25年の奥田秀樹通信員(57)が迫った。

 メジャーの不文律とは騎士道精神だ。本塁打を打ち派手に喜ぶのは礼節に欠け、相手投手の完全試合をバントで止めるのはひきょうである、と。大量得点差で勝負がついている場面で盗塁はせず、3ボールからスイングしてはならない。

 08年10月。ドジャース・黒田の騎士道精神が称賛された。フィリーズとのリーグ優勝決定シリーズで、相手投手がド軍の主力打者に露骨な内角攻めを繰り返した。不文律では「チームメートが意図的にぶつけられていたら報復すべき」。黒田は、ビクトリーノの頭部付近に投げ、両軍総出の騒ぎになった。女房役のマーティンは「黒田はサムライだ。我々を燃えさせてくれた」と話した。黒田はリーグから罰金を科せられたが、当時のジョー・トーリ監督も称えた。一躍ロサンゼルスの英雄になった。チームや仲間への忠誠を示し、守ったから。そうするしかなかった。

 タティスはメジャーのこれからをけん引する存在。この不文律も守ることで、球界の顔になり、敬意を払われる存在になる。そんなこと…という意見もあるが、それが現状だ。

 レッズの先発右腕バウアーは「なんて古くさい、だから野球は若者に人気がない」と主張する。大差がついた試合で、ファンが期待するのはスター選手の一挙手一投足なのかもしれない。本塁打増が叫ばれている。6点差や7点差がひっくり返る試合もある。

 「死に体」の相手に追い打ちをかけないという精神そのものを批判すべきではない。問題があるのは「報復」のあり方だ。死球を与え、選手が万が一故障すればファンは悲しむ。ファンの存在を考えた時、一番大事なことは何かを議論すべきである。100年以上かけて作り上げたものにメスを入れるには、メジャー球界全体の意識改革と覚悟がいる。 (奥田秀樹通信員)

 《不文律「教わって育った」敵将は報復投手をかばう》レンジャーズのクリス・ウッドワード監督は「8回に7点差で勝っているなら、3ボールから振るべきではない。そう教わって育った」と報復投球をした自軍選手をかばった。他球団ではエンゼルスのジョー・マドン監督は大量点差を縮めるのが難しかった昔と一発が量産されている現在では事情が違う点を挙げ「それだけの点差をつけられた方(負けているチーム)のせいである」と語った。

 《3ボールで強振 新庄も報復死球》日本選手も3ボールからのスイングで、報復を受けた例がある。メッツ時代の新庄剛志だ。01年5月24日のマーリンズ戦の11―3で迎えた8回1死無走者で、3ボールからの4球目を強振して空振り。翌25日の同戦の7回、左上腕部に死球を受けた。「当てたのはわざとでしょう。きのう(24日)のことが相手投手の頭にあったのは間違いない」と新庄。メ軍のボビー・バレンタイン監督は「打ちにいったから報復なんてばかげた話」と怒りを口にしたが、マ軍のジョン・ボールズ監督は「逆の立場なら嫌な思いをしたはず」と紳士協定違反を主張した。

 《大量得点差から初球バント安打 WBCで乱闘劇》国際大会でも大リーグの暗黙のルールから史上初の乱闘劇に発展した例がある。13年の第3回WBCで、3月9日の1次ラウンドD組のメキシコ―カナダ戦。カナダが9―3で迎えた9回に先頭打者が初球にバント安打。メジャーでは大量得点差の状況では禁じ手で、メキシコは次打者に2球続けて体スレスレに投じた。球審が両軍へ警告も、直後の3球目に背中に投球が直撃した。両軍の乱闘劇で計7人が退場。得失点率が順位決定に絡む大会規定との矛盾が指摘された。

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2020年8月23日のニュース