エンゼルス大谷の“秘すれば、花” 取材対応、マスク基金支援も…

[ 2020年4月26日 09:00 ]

エンゼルスの大谷(AP)
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 <秘すれば、花>という言葉がある。世阿弥の『風姿花伝』の一節を引用し、重松清の小説『とんび』(角川書店)に書かれている印象深い言葉だ。

 作中で小料理屋の女将・たえ子が主人公・ヤスに「……秘すれば、花なんよ」「なんでもかんでも、ほんまのことを言えばええいうもんじゃないんよ、世の中は」と話す。秘めるからこそ花になる、秘めなければ花の価値は失せてしまうという意味で、その他にも秘めることに関していろいろな解釈がある。

 前置きが長くなってしまった。筆者はスポニチでまだ野球担当8年目の若輩者だが、この言葉が最も似合う野球選手の一人がエンゼルス・大谷だと思っている。大谷は基本的に質問されたこと以外は答えない。目標など具体的数字に関しても、極力答えないようにしている印象を受ける。一番は発言の影響力を考えてのことだろうが、「打てた理由」「抑えられた理由」をそう簡単にメディアに論じてほしくはないのだろう。答えは一つではない。秘めることが大谷にとって野球というスポーツへの敬意だと、個人的に解釈している。

 ここ最近、最も<秘すれば、花>を感じたのは、大谷を含む17人の日本の著名人が協力したNPO法人「ジャパンハート」のクラウドファンディングだ。新型コロナウイルスの感染拡大による医療崩壊阻止へ、医療従事者にマスクを供給するための寄付を呼び掛け、約1日で1億5350万7000円の寄付を集めた。その後はチャリティーオークションも行われ、大谷が出品したサイン入りバットが最も高額の190万5000円で落札された。

 大谷は公式サイト上で「皆さん大変だと思いますが、医療機関をはじめ多くの人たちが問題解決に精いっぱい動いてくれています。そんな方々の助けになれれば。感謝と思いやり、そしてお互いを助け合う気持ちを持って支え合っていきましょう」とコメントした。大谷だけでなくサッカー日本代表DF長友佑都(ガラタサライ)、競泳・瀬戸大也(ANA)などが協力した同企画であれば事前告知などがあっても良さそうだが、大々的なものはなし。企画担当者によれば「緊急性を要するものだったため、時間もなく、大規模な告知はできませんでした。まずはマスクなどを医療物資を調達することが大事。何時間前など直前のオファーにも関わらず、大谷選手だけに限らず皆様が賛同して下さいました」という。このクラウドファンディングやチャリティーオークションの目的は「マスク基金」で支援の輪を広げることであって、主役は協力者たちだけではない――。本来の意味とは少し異なるが、これもまた<秘すれば、花>の一つだと感じた。

 2020年。世界的なコロナ禍の影響で、二刀流復活を目指すシーズンはまだ始まりが見えない。大谷は今、何を思うのか。メディアの前に姿を現した時、その思いや伝えたいことの本質にもっと迫っていきたいと思っている。(記者コラム・柳原 直之)

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2020年4月26日のニュース