【内田雅也の追球】「怒り」も力の源――ソラーテの無気力に怒れ! 阪神!

[ 2019年9月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―6広島 ( 2019年9月6日    マツダ )

大木通訳(左)と広島から緊急帰阪したソラーテ (撮影・平嶋 理子)
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 それにしても、試合前に帰ってしまった阪神外国人、ヤンハービス・ソラーテは理解に苦しむ。球団が発表した「モチベーションがない」とは何ごとか。つまりは「やる気がない」ということか。

 そんな理由が本当にあるのか。言うに言われぬ事情があるのか。もし本当ならば、そんな無気力な選手はもうグラウンドに立つ資格などない。

 野球は団体競技だ。士気を下げるような態度、言動には厳正に対処したい。球団の管理姿勢も問われよう。チームのモチベーションが下がる。

 クライマックスシリーズ(CS)進出を争う広島との直接対決3連戦の直前である。2・5ゲーム差で迎え、3連勝と意気込んでいた。その矢先である。

 ソラーテは実際に広島入りし、球場ロッカーにも来ていた姿は誰もが目にしている。当然、1軍昇格だとみていた選手たちも「どうなっているんだ?」と疑問に思ったまま、試合を迎えることになる。これが決戦前の状況だろうか。

 監督・矢野燿大もあきれたことだろう。実に、けしからん話だ。こんな時は怒っていい。矢野は怒りを含めた自身の感情を前向きにコントロールできる監督だが、こんな時は怒っていいのだ。

 実はこの日、広島に向かう新幹線の車中で、2軍守備走塁コーチの中村豊と出くわした。偶然、席が前後だったのだ。2軍遠征先の高知・安芸に向かうところだった。飛行機が苦手な中村はチームを離れ、一人で陸路移動の最中で、岡山まで一緒だった。

 2軍を離れ、1軍に向かったソラーテについて「打撃はやはりモノが違います」と話していた。1軍の起爆剤に、との期待もあったろう。まさか、1軍出場を拒んでいるとは思ってもみなかったことだろう。

 7日は中村にとって忘れられない日である。いや、阪神にとっても2005年優勝の語り草だ。中日戦(ナゴヤドーム)で「怒りの決勝弾」を放った9月7日だ。

 9回表、代走での本塁突入をアウト判定に「自信がある。セーフだ」と抗議。監督の岡田彰布も抗議した。その裏、相手の本塁判定はセーフで同点とされ、再び猛抗議。一時は全員をベンチに引き上げさせた。同点で再開後の延長11回表、守備についていた中村に打席が回り、左翼ポール際に本塁打を放ったのだ。

 モチベーションにもいろいろある。「怒り」もまた大きな力となる。阪神でも監督を務めた野村克也は色紙に「憤怒(ふんぬ)の力」と書いていた時期があった。同じく阪神監督経験がある中西太が多くの教え子たちに伝えてきた「何苦楚(なにくそ)魂」である。

 この決戦場にいれば、モチベーションなどいくらもある。むろん、まだCS進出も、日本一の望みだって残っている。

 不満も怒りもたまる痛い敗戦だったろう。それぞれの思いをぶつければいい。 =敬称略=(編集委員)

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