CSファイナルS 摂津 絶好調も四球に「動揺」最短KO

[ 2013年1月23日 12:00 ]

日本ハム・稲葉(左)の一ゴロでベースカバーに入り、右足を負傷したソフトバンク・摂津

野球人 ソフトバンク・摂津正(下)

 0勝2敗。シーズンの優勝チームに与えられるアドバンテージも加えると、日本シリーズ進出に王手をかけられた状態でソフトバンク・摂津はマウンドに立った。

 昨年10月19日、日本ハムとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第3戦(札幌ドーム)。圧倒的不利の状況だが、エースならば負の流れを止められる。北の大地へ駆けつけたファンだけではない。摂津自身もまた、自信はあった。しかし、プレーボールとともに試合は思わぬ方向へ。悪夢のような出来事が起きたのは初回2死だった。

 「あの試合は立ち上がりから凄く調子が良かった。これはいけるぞと思ったんです。ただ2アウトを取った後、四球を出して動揺した」。あれから3カ月。当時、頑として口を閉ざした気持ちを初めて吐露した。

 2死一塁、中田に左翼フェンス直撃の先制二塁打を浴びる。続く稲葉は一ゴロに打ち取ったかに思えたものの、揺さぶられた心はまだ混乱したままだった。ベースカバーが遅れた焦りで一塁ベースを踏み損ねる。「(ベースを)踏んだ瞬間、まずいなと思った。次第に脂汗が出てきた」。ひねった右足は動かないようにテープでぐるぐる巻きにした。踏ん張りが利かない。プレートを蹴る右足を使わず、上体の力だけで投げた。ただ、それだけで抑えられるほど甘くなかった。2死一、三塁から小谷野に中前適時打され、プロ最短となる2/3回3失点KOだった。

 それほどの状態でなぜ、戻ったのか――。「(負傷した)場所も場所だし、無理すれば引きずることは分かっていた。ただ、負けられない試合だった。(首脳陣が)自分をそこに持ってきた意味も分かっていた。最後は悔しさだけでした」。開幕投手を任された瞬間から背負ったエースの宿命と重圧。それに真っ向から立ち向かった。完全燃焼に悔いはなかった。

 腰痛を抱え、状態が上がらないまま投げたシーズンは17勝5敗、防御率1・91で先発投手最高の栄誉・沢村賞を手にした。逆に絶好調に仕上がっていたCSファイナルSはまさかのKO劇だった。

 「この経験をどう生かせるのか。調子がいいから成績を残せるわけでもないと思った。だから野球は面白い。これからも勉強することは多いんですね」

 2012年、自分自身に起こった数奇な出来事を反すうするように思い返し、新たな幕開けに備える。

 ◆摂津 正(せっつ・ただし)1982年(昭57)6月1日、秋田県生まれの30歳。秋田経法大付では3年春に甲子園出場。JR東日本東北から08年ドラフト5位でソフトバンク入団。09、10年最優秀中継ぎ投手、09年新人王。11年から先発転向。12年は17勝で最多勝、最高勝率、沢村賞。通算194試合で40勝18敗1セーブ、防御率2・20。1メートル81、90キロ。右投げ右打ち。

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