尚弥、世界一の代償…右眼窩底など2カ所骨折 来年の海外進出に影響も
ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)バンタム級トーナメントを制覇したWBA&IBF世界同級統一王者・井上尚弥(26=大橋)が9日、右眼窩(がんか)底など2カ所を骨折していたことを公表した。手術はせず、保存治療で経過観察する。1カ月後に再検査を受けるが、現時点では全治は不明。本格的に海外進出する来年のスケジュールに影響する可能性もある。
最強の称号を手に入れた代償は、大きかった。5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)との激闘から2日。同門の中嶋一輝の試合応援のため、9日に東京・後楽園ホールを訪れた井上が明かしたのは顔面2カ所骨折という衝撃の事実だった。
井上は7日にさいたまスーパーアリーナで行われたWBSS決勝でドネアに判定勝ちしたが、2回に左フックを浴びて右まぶたをカット。「右目がぼやけてドネアが二重に見えた」と訴えていた。8日の一夜明け会見後、都内の病院で精密検査を受け、2カ所の骨折が判明。大橋秀行会長は「手術はしないで保存治療です」と説明。骨折部位について井上は「右の眼窩底と、この辺りです」と鼻の右下を指し、「パンチをもらった後にしびれがあったのでヤバい!折れたかも、という感覚はあった」と振り返った。
この日の午後にはWOWOWライブ「エキサイトマッチ」(月曜午後9時放映)の収録に参加し、ドネアとの激闘をシーンごとに心境や状況を自ら細かく解説。ドネアが13年4月のリゴンドー戦で取った戦法を思い出し、右目をグローブで隠して左目で焦点を合わせるという、相手が二重に見える状況への対処を選択したことも初告白。その時点では負傷について「問題ない」としていたが、大橋会長と相談して公表を決断。SNSでファンにも報告し、隠していたことを謝罪した。
井上は「医師からは“次戦に影響ない”と言われた」と軽傷を強調したが、最近の日本人世界王者では田中恒成(畑中)がWBOライトフライ級王者時代の17年9月に両目眼窩底を骨折。復帰まで半年以上を要し、田口良一(ワタナベ)との統一戦が実現しなかった例もある。
米大手プロモーター、トップランク社と複数年契約を結び、本格的な海外進出へ道筋ができたばかり。来年は米国で2試合と国内で1試合を計画していた。井上自身は次戦について「3月下旬か4月」を希望しているが、1カ月後の再検査の結果次第では青写真が崩れる可能性もある。
▽眼窩底骨折 眼窩は眼球周辺の骨。眼球下部にある眼窩底の骨は薄いため、外部から強い衝撃を受けて眼窩内部の圧力が急激に上昇すると損傷しやすい。症状としては眼球陥没、物が二重に見える複視、眼球を上に動かせなくなる上転障害のほか、網膜剥離につながるケースもある。スポーツでは格闘技のほか、野球などのボール、アイスホッケーのパックが当たった場合などに見られる。
▼横浜市・松宮整形外科院長松宮是哲氏 目をボールに例えると、そのボールを支える内側の下の骨が眼窩底。目の位置にズレが生じたり、合併症までいくと即入院、手術が必要だが、軽微な症状なら安静にしながら自然治癒を待つことになる。1カ月後に再検査なのであればズレが少なく、症状は軽いと考えられる。個人的な見解では、2ラウンド目から相手が二重に見えたのであれば、その時点でドクターストップだと思う。
《大橋会長も死闘称賛「新たな伝説」》 大橋会長は2カ所を骨折しながら戦い抜き、ドネアとの死闘を制した井上を「新たなモンスター伝説になった」と改めて称賛した。試合中に普段の動きとは違うことは気付いていたが、骨折は考えていなかったようで「これまで見たことのないような左ジャブのもらい方をしていた。骨折と聞いて納得しました」と話した。
《浜田剛史氏「ゆっくり体を休める、いい機会」》 WBSS決勝をリングサイドで視察し、WOWOWの収録でも井上と同席した本紙評論家の浜田剛史氏(元WBC世界スーパーライト級王者)は「手術ではなく保存治療ということなら、症状としては軽いのではないか」と推測した。眼窩底骨折の場合、気分が悪くなり吐き気を催す人もいるが、井上は試合後も元気で、収録現場でも「アナウンサーが楽だろうと思えるほどしっかり試合を振り返っていた」という。右目が二重に見える状態も「試合中に少し感覚が戻ったということなので、眼球にも問題がなかったと思う」と話した。眼窩底骨折はボクシングでは珍しくなく医療態勢が進んだ現在では「治ってしまえば大丈夫。みんなカムバックできている」と浜田氏。「ゆっくり体を休める、いい機会になる」と前向きにとらえることを勧めた。
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