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4階級制覇持ち越しの井岡、今後に期待も気になる“問題”の行方

[ 2019年1月2日 09:30 ]

ニエテスとの激闘で判定負けした井岡(左)=撮影・田中哲也通信員
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 欲張った甲斐はあった。年末のボクシング世界戦6試合を全て取材しようと、12月30日の東京・大田区総合体育館でのトリプル戦後、羽田から香港経由で31日のマカオへ。強行軍のおかげで、ともに4階級制覇を懸けたドニー・ニエテス(フィリピン)―井岡一翔のWBO世界スーパーフライ級王座決定戦を見ることができたのは良かった。年末6試合の中では一番、2018年を通しても年間最高試合候補に挙がるハイレベルの激闘だった…8回までは。

 井岡は9月の復帰戦と同じく積極果敢に打ち合い、ジャブの差し合いやコンビネーションでも勝っていた。ただし、きれいな連打は最後の一発がパワーレスに見え、ニエテスが繰り出すパワフルな右一発で好印象をひっくり返されてしまう。リングサイドでテレビ解説を務めた内山高志氏(元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者)が「ブロックしていても、その上から効かされたように見える」と指摘したとおりだった。

 井岡は途中から若干距離を調整したり、サークリングして打っては離れるなど工夫をこらし、8回にはプレスをかけて打ち合い、このラウンドをモノにしたように映った。だが、9回からはハッキリと距離を取って戦った。うまく戦ったようにも見えたが、手数の減ったニエテスに強いパンチを打ち込めなかったのも事実で、採点にも反映されなかった。判定はジャッジ3人の採点が大きく割れての1―2。ニエテスの勝利を支持した2人は9回以降を全てニエテスの「10―9」としており、井岡が終盤、印象に残るラウンドを1つでもつくっていればと残念に思った。

 日本人初の4階級制覇は持ち越しとなったが、軽量級のスター選手を集めた興行「SUPERFLY」を手がけるプロモーター、トム・ロフラー氏が「評価は下がっていない」と話すように、井岡には今後も期待が持てる。ただし、今回4階級制覇を達成していたとしても、MVPや年間最高試合などの「年間表彰」の対象とならない可能性があったことは記しておく必要がある。井岡は17年12月に日本ボクシングコミッション(JBC)に引退届を提出し、復帰後も国内ジムに所属していないため、世界ランカーであるにも関わらずJBCのランキングからは外れている。日本プロボクシング協会(JPBA)が年末に開いた忘年会でも「大みそかはマカオで(京口紘人と坂本真宏の)ダブル世界戦」と露骨に紹介される場面があり、いまだ「勝手に海外で試合をしている選手」の扱いだ。JBCもJPBAも積極的に表彰するわけにはいかず、表彰の選考対象とするには年間表彰を共催する運動記者クラブが井岡を推薦する必要があった。

 弊害も指摘されるが、日本は世界でも独自のジム制度でボクシング界の権威を保ってきた面があり、井岡のような活動を認めれば現行のシステムが崩れる恐れがある。だからと言って、日本のジム所属選手も世界戦を行った興行で、JBCも承認している統括団体WBOのタイトルマッチに出場した日本人選手を全く無視するというのも、一般の人から見ればよく分からないだろう。井岡は今後も海外で戦う意向を示しているが、世界王者に返り咲く前に、関係者がこの問題を解決する努力をすべきではないか。ボクシング界全体が祝福できないような4階級制覇では悲しすぎる。(専門委員・中出 健太郎)

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