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村田のV2戦発表が遅れた要因とは

[ 2018年9月3日 11:00 ]

WBA世界ミドル級タイトルマッチ発表会見に臨んだ村田諒太(撮影・郡司 修)
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 【中出健太郎の血まみれ生活】WBA世界ミドル級王者・村田諒太(32=帝拳)の2度目の防衛戦がやっと正式決定した。10月20日に米ラスベガスで同級2位ロブ・ブラント(27=米国)との指名試合になる。試合は日本人選手では初めてインターネット動画配信サービスのDAZN(ダ・ゾーン)が国内生中継。ファンからは「地上波生中継がなくてガッカリ」との声も聞かれるが、村田戦が視聴者を集めるコンテンツだからこそのDAZNだと考えるべきだろう。

 だが、そのDAZNが村田のV2戦がなかなか決まらなかった要因の1つだった。日本のDAZNではなく、米国のDAZNである。

 今春、DAZNを運営する英パフォーム・グループが英国有数のプロモーターであるエディー・ハーン氏と組み、10億ドル(約1100億円)とされる巨額投資で「マッチルーム・ボクシングUSA」を設立。年16試合を開催し、DAZNで全試合を放映する契約で米国へ乗り込んだ。有力選手を確保するためスーパーウエルター級の元世界王者デメトリアス・アンドラーデ、元2階級制覇王者ジェシー・バルガス、日本でもおなじみのWBA世界スーパーバンタム級王者ダニエル・ローマンらと契約。帝拳ジムの本田明彦会長によると「選手の取り合いになっている。特にミドル級のランカーはみんな声をかけられていて、ファイトマネーが3、4倍になっている」状況で、声がかかったブラントも後ろ盾を期待して村田陣営に法外なファイトマネーを要求してきたという。

 村田が狙うのは、15日に米ラスベガスで行われるミドル級頂上決戦、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)―サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の再戦の勝者への挑戦。そのためにもV2戦はKO勝ちが求められ、村田をプロモートする米トップランク社は好戦的なジェイソン・クイグリー(アイルランド)と交渉を始めていた。元々、ゴロフキン陣営は村田戦に前向き。カネロがゴロフキンに勝った場合でも、同じゴールデンボーイ・プロモーションズと契約する14戦全勝(11KO)のホープ、クイグリーを倒すことで今後の挑戦をアピールする計画だった。

 そこへ、WBAがブラントとの指名試合を指示してきた。ブラントは米国でも人気がない上に、ファイトマネーが「50:50」という王者側には受け入れがたい条件の入札指令を、本田会長もトップランク社も無視。王座剥奪も辞さない覚悟だったが、クイグリー側がタイトルの懸からない可能性がある村田戦に懸念を示した。さらに米国のDAZNが村田と日本のDAZNのスポンサー関係を知り、ブラントから“撤退”。交渉の主導権を握ろうと強気だったブラント陣営は拠り所を失ってトップランク社に歩み寄るしかなく、指名試合が決まったという。

 「マッチルームUSA&DAZN」参戦による選手獲得競争の激化は軽量級でも始まっており、今後は村田以外の日本人選手にも影響を与えそうだ。14日に米デビューするスーパーライト級の岡田博喜(角海老宝石)が村田と同じくトップランク社と契約したのも、有力選手を早めに抑えたい意向が同社にあるためとみられる。ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)がスタートし、各階級のトップクラスが1年以上トーナメントに縛られる可能性が出てきたことも、獲得競争に拍車をかけるはずだ。日本人の海外進出のチャンスが増えることになるが、いざという時にジム側も適切に対応できる準備を整えておく必要がある。(専門委員)



 ?中出 健太郎(なかで・けんたろう)千葉県出身の51歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、NBA、海外サッカーなどを担当。後楽園ホールのリングサイドの記者席で、飛んでくる血や水を浴びっぱなしの状態をコラムの題名とした。今年6、7月はサッカーW杯を国内でカバーし、8月はラグビーも取材していたため興行取材は休みがち。久々にリングサイドで見た八重樫東―向井寛史戦は熱かった。

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