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重苦しさなかった山中竜也引退会見 母の“うれしい悩み”とは…

[ 2018年9月3日 06:00 ]

引退会見後、山下会長にねぎらわれて笑顔を見せる山中(左)
Photo By スポニチ

 周りの空気を穏やかにする不思議な力があった。「体重は自己最高の67キロです」と言って笑った。ボクシングの前WBO世界ミニマム級王者・山中竜也(23=真正)が8月31日に神戸市内で開いた引退会見。重苦しさはなかった。

 7月13日のV2戦(神戸市立中央体育館)でサルダール(フィリピン)に判定負け。王座から陥落後、シャワーを浴びているときに異変は起こった。激しい頭痛。自転車に乗れず、徒歩で家路についたが痛みは増すばかり。立てなくなった。

 救急搬送された神戸市内の病院で検査すると「急性硬膜下出血」の診断。脳の右側表面が出血で腫れ、集中治療室(ICU)に入った。母・理恵さんは医師に呼ばれ、「会わせたい家族がいたら呼んでください」と告げられた。再出血があれば命にかかわるからだ。

 幸い再出血はなかった。しかし、頭蓋骨内出血は程度を問わず、JBC規定ではライセンスが失効する。症状が落ち着くと、山中は母にこう言ったという。「オレがボクシング辞めたら、ちょっとほっとするやろ?」。その後、山下正人会長が病室で苦渋の引退勧告を行ったが、本人は予期していたようだ。

 中卒でプロを目指したリング一筋の男。病室でも自分の“最後の試合”の動画を見ていたほどだ。母は、突然生きがいを失う山中のことが心配で、目が離せなかった。そんなとき、息子から電話が入った。「オレが自殺するとでも思ってたやろ。そんなん、するわけないやん」。見透かされていた。

 両親は山中が小学生のときに離婚。理恵さんは6人の子どもを、時給が高いタクシーの洗車などの重労働をこなし1人で育てた。腰を痛めて働けなくなると、山中は整骨院を探し出して紹介した。理恵さんが介護職で仕事を再開しても、「オレが稼ぐから、無理しないで」とファイトマネーの中から送金し続けた。

 今、理恵さんに、うれしい悩みがある。「最近、竜也から“どこか行こうか。北海道とか、沖縄とか”と聞かれて。お金もかかるし“そんなん、いいって”と言うたけど…。行った方がいいかな」。内心は、きっと見透かされている。

 山中はまだ23歳。ボクシングではかなわなかったが、母に家をプレゼントする夢もあきらめていない。第二の人生の再スタートは、親子水入らずの旅の後でも遅くない。

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2018年9月3日のニュース