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ボクシング界 価値下がる世界王座連続防衛…強い王者ほど“ステージアップ”

[ 2018年6月8日 10:45 ]

3本のベルトを披露する井上尚弥。左がWBC世界ライトフライ級、右がWBO世界スーパーフライ級、腰にはWBA世界バンタム級のベルト
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 ボクシングの前統一世界ライトフライ級王者・田口良一(ワタナベ)が再起にあたり、1つ上のフライ級への階級アップを検討しているという。WBAとIBF、2つのベルトの同時防衛が懸かった5月20日の一戦は最終12回にダウンを奪いながら、ヘッキー・ブドラー(南アフリカ)に全て1点差の0―3判定負け。再戦すればリベンジできると思うが、試合当日に体が動かなかった原因とみられる減量苦の解消を優先するようだ。

 ジムの後輩のIBF世界ミニマム級王者・京口紘人も、次戦で統一戦ができなければライトフライ級へ上げる選択肢を明かした。ブドラー相手に田口の敵を取り、2階級制覇できれば最高のシナリオ。だが、現状ではやはり減量が楽ではなく、筋量を増やさないためにウエートトレも控えている。2階級制覇はモチベーションにはなるが、それよりもコンディションを重視し、減量苦から解放された自身の「本当の強さ」が知りたいとの思いが大きいだろう。

 国内最速16戦目で3階級制覇を達成したWBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)はこれらの要素に加え、ふさわしい対戦相手を求めて階級を上げた。スーパーフライ級では元4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア、帝拳)との対戦がかなわず、他団体王者には統一戦を断られ続け、明らかに実力差がある相手にKO防衛しても不満そうだった。それがバンタム級に上げた途端、統一戦が自然に実現するワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)の開催が決まったのだから、階級アップのタイミングは完璧だった。もっとも、すぐにバンタム級でも無敵になりそうだが…。

 井上が7度防衛したWBOスーパーフライ級王座を返上し、田口も7度防衛中だったWBAライトフライ級王座を失ったため、最も防衛回数が多い現役日本人世界王者は3度のWBCライトフライ級王者・拳四朗(BMB)になった。ここ数年は内山高志(元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者)が11度、山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)が12度の防衛を重ね、不滅と言われてきた具志堅用高(元WBA世界ライトフライ級王者)の日本記録「V13」に迫っていただけに、寂しい感じがする。井上はバンタム級での「V13超え」も口にしているが、敵がいなくなればさらに階級を上げざるを得なくなる。このままだと、「V13」は本当に不滅の記録になってしまうかもしれない。

 実際に、現在のボクシング界で「連続防衛」の価値は下がっているように思える。内山や山中らベテランは節制に努め、適性階級だったからこそ長く防衛できたが、若い王者たちがさらに強くなろうとフィジカルを鍛えれば、減量は自然と厳しくなる。強い王者ほど同じ階級での相手探しも難しくなり、モチベーションアップには現在保持するベルトを守るよりも、ビッグネームとの対戦や複数階級制覇、統一戦、海外進出など実力をぶつけるための「ステージアップ」が必要となってくる。そして、試合のたびにチケットを大量にさばける山中のような例を除けば、国内で防衛を重ねていても大金を稼ぐチャンスは訪れない。「具志堅のV13」は確かに素晴らしい記録だが、王者たちの限りあるボクシング人生を考えると、過剰に神聖視すべきではないと思えるのも事実だ。(専門委員・中出 健太郎)

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2018年6月8日のニュース