大坂なおみ 2年ぶり全米V 「7枚のマスク」に込めた絶対に負けられない理由

[ 2020年9月14日 05:30 ]

全米オープン第13日 女子シングルス決勝 ( 2020年9月12日    ニューヨーク ビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター )

女子シングルス決勝、2年ぶり2度目の優勝を決め、コートに横たわり、空を見上げる大坂(AP)
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 女子シングルス決勝で世界ランキング9位の第4シード、大坂なおみ(22=日清食品)が元世界1位で同27位のビクトリア・アザレンカ(31=ベラルーシ)に1―6、6―3、6―3で勝利し、2年ぶりの優勝を果たした。18年全米、19年全豪に続く、4大大会3勝目。決勝で第1セットを落とした選手の逆転は26年ぶりの快挙となった。試合時間は1時間53分。優勝賞金300万ドル(約3億1800万円)を手にし、14日発表の世界ランキングで3位浮上も確定した。

 優勝を決めたコートに仰向けになり、空を見上げた。試合直後に歓喜で崩れ落ちたわけではない。激闘を繰り広げたアザレンカ、審判らとあいさつを交わした後、大坂は勝利をかみしめるように、そっと寝転がった。

 4大大会では3勝目。「多くの偉大な選手が倒れ込んで空を見上げていたので、どんな景色が見えるのかと思った。信じられないくらい素晴らしい瞬間だった」と実感を込めた。しばらく見つめた空には不当な暴力で命を落とした数々の黒人犠牲者の顔が浮かんでいたのかもしれない。

 人種差別へ抗議を示す使命を自らに課し、決勝までの試合数に合わせ7枚の被害者の名前入りマスクを用意。最後は12歳(当時)の若さで警察官に撃たれたタミル・ライス君の名が入ったものを身に着け「皆に全てを見てほしい」の公約を果たした。優勝インタビューで「どんなメッセージを伝えたかったか?」と問われると「どんなメッセージを受け取りましたか?」と逆質問した。議論の活発化を心から願った。

 だから心は折れなかった。第1セットは絶好調の相手に1―6。第2セットも先にブレークされたが、第3ゲームをブレークバックし流れを変えた。全米の女子シングルス決勝で第1セットを失っての逆転は94年以来26年ぶり。「全てが後押ししてくれた」。大会中に被害者家族から受け取った感謝のメッセージも「泣かないようにするのが大変だった」と力へと変えた。

 父フランソワさんが貧困国ハイチ出身、母環さんが北海道生まれ。3歳で米国移住した「マイノリティー(人種的少数派)」の立場が、人権意識の原点だ。5月25日。警察官に膝で首を押さえつけられ「息ができない」とうめいたジョージ・フロイドさんの動画に衝撃を受けた。6月には交際中のラッパー・コーデー(23)と事件が起こったミネソタ州ミネアポリスのデモや追悼式にも出席し「“人種差別主義者ではない”では不十分。“反人種差別主義者”にならないと」と心に誓った。

 8月の大会で「私はアスリートである前に黒人女性」と一度は棄権表明。だが、沈黙を行動に移した今大会は見事、笑顔でトロフィーにキス。大坂は「ニューなおみ、オールドなおみがいるかは分からないが、自分を進化させることができた。より完成された選手になった」と誇った。

 全米、そして世界が注目した2週間。アスリートの政治的活動がタブー視されてきた風潮に「7枚のマスク」で一石を投じた。「伝えたかったのはより疑問に思うということ。人々が(人種差別の)議論を始めてくれればいい」と大坂。通常のグランドスラム以上に価値のある勝利だ。

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