平昌五輪に参加される皆様 あなたには「心の支え」がありますか?

[ 2018年1月26日 10:00 ]

同じ月に子供が誕生したアルペン男子・米国代表のナイマン(左)とレアリック監督(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】平昌五輪に参加するアルペンスキー男子の米国代表チームは今、ベビー・ラッシュで沸き立っている。AP通信が報じているもので、2年前にアンドリュー・ワイブレヒト(31)に女児が誕生したと思ったら、昨年6月にスティーブン・ナイマン(35)の恋人が女児を、そしてすぐにテッド・リゲティー(33)の妻が男児を出産した。それから1カ月しないうちに、今度はチームの監督とコーチに子どもが生まれ、今季は遠征先のホテルの一室が「託児所」になっていたのだそうだ。

 ここでふと思う。なぜ生まれたばかりの赤ちゃんが父親の大会に“帯同”しているのだろうと…。たぶん日本人的感覚からすると「えっ?」と思うかもしれない。

 しかし、スキーのW杯や世界選手権に出場しているトップ選手になると、母国を長期にわたって離れることになる。生まれたばかりの赤ちゃんは、ストレスを受け続ける選手にとっては頼もしい助っ人なのだ。家族と一緒に転戦することは、リスクよりもメリットの方が多い…。米国代表チームにはその信念が浸透しているようで、もちろん平昌五輪でも「チームUSA」では1歳に満たない応援団が母親に連れられて競技会場に姿を見せることだろう。

 NBAウォリアーズのシューター、ステフィン・カリー(29)はシューズに2人の娘の写真を貼り付けている。相手に踏まれるとダメージを受けるのでは?と思ったりもするのだが、競技中でも「家族と一緒」という感覚は、困難に陥ったときの最後の支えとして機能しているのかもしれない。

 別に「正解」があるわけではない。しかし五輪への扉を開いた選手は、何かしら苦境を打破する方法と才能を持ち合わせているように思う。

 2014年のソチ冬季五輪。ボブスレー男子のジャマイカ代表、ウィンストン・ワッツ(当時46)は、人口が1万人という米ワイオミング州の小さな町、エバンストンで失業の身だった。働いていた天然ガスの会社がリストラを行ったためで、やむなく車の修理や面倒な家の補修、さらに子どもたちにスポーツを教えるトレーナーとして働いて食いつないでいた。

 しかし、地域に貢献する地味な仕事が彼の人生を変えた。自身4回目の五輪だったが資金は枯渇。参加費用がないと訴えると、世界中から寄付が集まった。それはエバンストンの人たちが懸命にワッツの日頃の行いをアピールしてくれたおかげだった。

 「彼は家族だ」。地元の人たちにとってワッツは大切な仲間。国境を超えた応援団が身近にいたことを知ったワッツは感無量の面持ちだったという。

 人間の絆というのは時として困難な状況から脱出する強力なエネルギーを生み出すこともある。赤ちゃんでなくても、どこかにそんな人はいないだろうか?スマートフォンに頼らないぬくもりのあるソーシャルネットワーク。五輪のドラマの原点はいつもここにあると信じている。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市小倉北区出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に7年連続で出場。

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