NFLブラウンズのあやまち 運も実力?でも人災か?

[ 2016年9月23日 08:30 ]

イーグルスのQBウェンツ(AP)

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】オハイオ州クリーブランドに本拠を置いているNFLのブラウンズは、4月末のドラフト直前に複数のベテラン・スカウト陣を解雇している。彼らが推す「A」というQBを、新たにチーム運営に関わることになった首脳陣は気にいらなかったのだ。

 「Aは上位20番目までに消えるくらいの選手。QBならばBの方がいい」。その時、ブラウンズは全体2番目の指名権を持っていたのだが、全体トップの指名権を持っていたラムズが「B」を獲得しそうな気配を察知すると、さっさと指名権をイーグルスにトレードしてしまった。

 「A」は米国的にはかなりローカル色の濃いノースダコタ州立大でプレーしていたカーソン・ウェンツ(23)で、所属カンファレンス(ミズーリバレー)はディビジョンI―AA。日本的に言うと「2部校」ということになる。しかし2番目の指名権を得たイーグルスはこのウェンツを指名した。そして1メートル96、108キロの大型司令塔はプレシーズンから安定感あふれるパスさばきを見せ、プレッシャーに強いところも披露。イーグルスは10年ドラフトのトップ指名選手で元ラムズのサム・ブラッドフォード(28)を昨季にトレードで獲得していたが、ウェンツに使えるメドが立つとさっさとバイキングスに放出してしまった。

 開幕から2週を終えてイーグルスは2戦2勝。ウェンツは獲得ヤードやTD数ではさほど目立った数字を残していないが、この2試合でインターセプトを一度も喫しておらず、ルーキーながらチームを勝利へと導いている。一方、連敗となったブラウンズはすでに2人のQBが故障で戦列を離脱。残ったQBは新人のコーディー・ケスラー(23)だけになってしまったため、やむなく実績に乏しいチャーリー・ホワイトハースト(34)というベテランと契約せざるをえなくなった。ケスラーは3巡目、全体93番目の指名選手。こんなことになるならスカウトのアドバイスに従ってウェンツを2番目で指名していれば良かったのだが、目利き能力の欠落?による選択のミスと、故障者続出という2つの運命の糸がもつれあってブラウンズ首脳陣の迷走ぶりが際立って目立つ結果となった。

 さてブラウンズが欲しかった「B」という選手の話をしておこう。彼の名はジャレッド・ゴフ(21)でカリフォルニア大のQBだった。注目株だっただけに、当然の成り行きとしてラムズはトップで指名。本拠地を昨季までのセントルイスから37年ぶりにロサンゼルスに移したチーム事情もあり、どうしても地元出身のQBが欲しかったようだ。

 しかしウェンツとは対照的にプレシーズンではNFL守備陣のプレッシャーにうろたえて四苦八苦。開幕戦はベンチ外の第3QB扱いで、第2戦はベンチにはいたものの控えのQBだった。

 イの一番指名選手なのに2週を終えた段階でまだ一度もプレーはしておらず、もしブラウンズが指名していたとしても彼らを待っていたのは過酷な運命。わずか2選手の指名をめぐる物語だが、そこにはイーグルスの高笑い、ラムズの苦悩、そしてブラウンズの嘆きという3種類の“表情”が見え隠れしている。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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