序ノ口で起きた“あってはならない出来事”について考える

[ 2016年9月16日 09:45 ]

 【佐藤博之のもう一丁】目を疑う出来事が繰り返された。秋場所3日目の9月13日、前相撲に引き続き行われた序ノ口の2番目に組まれた西29枚目・服部桜(式秀部屋)-西26枚目・錦城(九重部屋)戦。この1敗同士の取組で、服部桜がわざと敗れる行為を3度続けた。

 1度目は、立ち合い直後に自ら両手を土俵についた。立ち合い不成立と見なされてやり直しとなると、次はついた手を離したと同時に、ヘッドスライディングのように前方に倒れ込んだ。だが、これも認められなかった。3度目は、後ろに倒れ尻もちをついたが、やはり不成立。4度目は、こわごわと両手を前方に出しながらも立つと、錦城に押しつぶされる形で両膝から落ちた。ようやく勝負が決した。

 敢闘精神に欠ける相撲を「無気力相撲」という。それが日本相撲協会の監察委員会で故意であると認定されれば、懲罰の対象となる。この序ノ口力士は無気力相撲と言われても仕方のない相撲だった。

 なぜ、このようなことが起きてしまったのか。18歳の服部桜は、昨年秋場所初土俵。不戦敗を含めて22連敗スタートとなり、今年夏場所でようやく初勝利を挙げた。一方の錦城は今場所が序ノ口デビューながら、入門前はアームレスリングの全日本ジュニア選手権2位の実績を持つ18歳。師匠の式秀親方(元幕内・北桜)は「細い体(1メートル80、64・4キロ)で相撲経験がない中、(初土俵から)1年やってきて首が痛くなった。相手に対して萎縮してしまった」と説明した。

 大相撲はプロ野球、Jリーグなどの他のプロスポーツと違い、本人のやる気さえあれば力士になれる(厳密には年齢制限、体格の制限などはあるが)。服部桜は自らが角界入りを希望し、家族の承諾を得て式秀部屋に入門。入門後に“相撲のいろは”を学ぶ相撲教習所では、今年5月の卒業式の際に皆勤賞をもらっている。もちろん、強くなりたい気持ちは持ち合わせている。それだけに今回の出来事が残念で仕方ない。

 二所ノ関審判部長(元大関・若嶋津)は今回の出来事を受けて、14日に式秀親方から事情聴取。きちんと指導するように口頭で注意した。式秀親方は「相撲を取るのであればプロですから、今後は様子を見て休場というのも考えないといけない。(万全の状態で相撲を取れないのは)相手に対しても失礼だから」と本人の気持ちをくんだ上で今後について判断するもようだ。

 序ノ口力士と横綱を比較するのは無礼であることを承知の上で書かせてもらうなら、白鵬は序ノ口デビューとなった01年夏場所で負け越しながらたゆまぬ努力を重ねて最高位に上り詰めた。偉大な「お手本」が角界にはいる。服部桜にとっても、これから何をするかの方が重要になる。(専門委員)

 ◆佐藤 博之(さとう・ひろゆき)1967年、秋田県大曲市(現大仙市)生まれ。千葉大卒。相撲、格闘技、サッカー、ゴルフなどを担当。スポーツの取材・生観戦だけでなく、休日は演劇や音楽などのライブを見に行くことを楽しみにしている。

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